紅羽の言葉を聞き、私は小学校に行っていた時の自分を思い出そうとしたが、頭に浮かばなかった。
「……分からない」
「そうか、……じゃあ小学生の頃の思い出とかは?」
紅羽は残念そうにした後、次の質問を投げかけてくる。
私は、今度は小学生の頃の思い出を考えた。
だけど、思い出どころか、小学生の頃の日常ですら覚えていない。
「いや、……なぜかは知らないけど、小学校の頃の出来事が全く思い出せない。……中学校での思い出は沢山思いつくのに、……なんかごめん」
私は低い声で、現状を正直に話した。
「…………」紅羽は黙り込む。
仰向けの状態で紅羽の方に顔を向けると、紅羽は私を細い目でじっと見つめていたことが分かった。
――その目は、私のことを探っているような目に思えた。
一体どうしたんだろう? 分からないと言い話の腰を折る私の態度に、機嫌を損ねたのだろうか?
……いや、そんなような感じではない。
紅羽はいきなり立ち上がった。私もつられて一緒に立ち上がってしまう。
「ねえ佐奈、私佐奈の卒業アルバムが見たいな!」
唐突にはきはきとそんなことを言い出す紅羽。
「別にいいけど、……卒アルは部屋のどこにあるのか分からないから探す必要があって、結構時間がかかると思うけど大丈夫?」
「うん! 大丈夫! 私も探すの手伝うよ!」
そう言って紅羽は力こぶを作って私に見せる。あまりこぶは大きくなかった。
私は家族写真が収められているアルバムの棚を一つずつ取り出して表紙を確認していった。棚は勉強机の上に置いてある。
「ええっと、中学生の時の卒アルはどこにやったかなー」
そんな独り言を言い、中学の卒業アルバムを探す私。
「佐奈、違うよ。私が見たいのは佐奈が『小学校を卒業』した時にもらった卒アルの方だよ」
紅羽は真剣な眼差しを私に向けて言う。
紅羽が真面目な時の三日月のように細くなった目を見ると、なんだか心の中を覗かれているような気がして、私はなにも隠しごとをしていないのにも関わらず、少し焦ってしまう。
「え? どうしてわざわざ小学生の時の卒業アルバムが見たいの?」
私は紅羽にちょっとだけ不信感を抱く。
「いいからいいから、私は小学生の時の卒アルが見たいの! 早く探そっ!」
紅羽はせかすようにそう言って笑った。
笑ったことにより、紅羽の真剣な目が普段通りの目に戻り私はホッと息をつく。