「おはよっ!」
元気よく挨拶する紅羽。
……ああ、約束は守られなかったな。私は落胆する。部屋の掃除はまだ終わっていない。
「その『おはよっ!』の挨拶をしたいがために、午前中に私の家に来たんでしょ!」
「あっちゃー、やっぱりばれちゃいましたか」
紅羽は頭を掻いて、いたずらがばれた子供のような表情をした。
「もうっ! 私の部屋、まだ片付いていないのに!」
私は不機嫌になり、強めの口調で言う。
「大丈夫だよ佐奈、私は部屋が汚さとかあまり気にしないから」
紅羽は軽くそう言い、にこやかに笑う。そして土間に入ってくる。
「私が気にするの!」
私は紅羽を睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「だったら私が部屋の掃除を手伝ってあげるよ! 部屋はどこ? 一階なの? 二階なの?」
そう言って土間で靴を脱ぎ、上がり框(かまち)へ入ってくる紅羽。
「二階の左側にある」ぼそりと呟くように言う私。
私が住んでいる家は一戸建ての一軒家で、私の部屋は二階に割り当てられている。
「おっけー、分かったよ!」
紅羽は颯爽(さっそう)と階段を上っていき、左側にある私の部屋の扉を勢いよく開ける。
「お邪魔しまーす、……うわぁあぁ、この部屋は流石にちょっと汚すぎるよ佐奈」
二階から一階へ、紅羽の小さな悲鳴が聞こえてくる。
「だから、部屋は片付いていないって言ったのに!」
私は紅羽に憤慨(ふんがい)しながら、バタバタと階段を上り始めた。
「はあ……、やっと綺麗になったね、……里歩」
「……そう、……だね」
紅羽と私は息切れ状態になりながらも言った。息切れしているわけは、二人で部屋の片づけをしていたからだ。
二人係でやっても、掃除が終わったのは午後二時だった。一人でやっていたら夕方までに終わっていなかったかも知れない。
「……さて、部屋も片付けたことだし、……なにして遊ぶ、佐奈?」
「……片付けを手伝ってもらった紅羽にこんなことを言うのはあれだけど、なんかどっと疲れてしまって今はなにもしたくないです」
私は紅羽を申し訳なさそうに見る。
「私も同意見、なにもしたくない」
紅羽は、カーペットの上にゴロンと仰向けになった。
私も紅羽の横に、同じ体制で寝転ぶ。
「小学生の時に夏休みの宿題で出された日記帳に、友達の部屋を隅から隅まで掃除しましたって書いたら、先生に、はなまるを貰えただろうなー」紅羽はポツリと呟く。
「夏休みでも小学生でもないから、先生から、はなまるはもらえないね、残念ながら」
私は苦笑いを浮かべる。
「小学生といえば、佐奈って小学生の頃はどんな感じの子だったの?」
紅羽は好奇心からか私の過去を聞いてくる。