むしろ、学校という環境にイライラしていて、不機嫌で元気がないのかもしれない。

紅羽は敏感にそのことに気づいているのかもしれないと思うと、私はなにも言えない状態になった。

……最低だ私は。友達に気遣いをさせてしまうなんて。

「私もう、もぐら叩き疲れたし飽きた。佐奈、途中からだけどやってみる?」
場の空気を変えるように紅羽はそう言ってモグラ叩き用のハンマーを渡してきた。

私は恐る恐るハンマーを受け取る。

「じゃあ、……うん。やらせてもらうね。……このゲームの代金は後で必ず返すからね」

「いやいや、平気だよ佐奈。だって佐奈は最初からゲームを始めるわけじゃなくて途中からだから、お金なんて必要ないよ」

首をブンブンと横に振る紅羽。

「そ、そう? 必要ない?」

私は紅羽の甘い言葉にゴクリと唾を飲む。

――実は私、ゲームセンターに来てみたはいいが、財布を家に忘れていたらしく、どのゲームも出来ないという事態になっていたのである。

だから紅羽に少しお金を借りようとしたのだが、よく考えてみると、自宅にある私の全財産は百円以下だった気がするので、ゲームのお金を返すと約束したところでそれがちゃんと果たせるかどうかが、不安だったのだ。

「うん! 必要ない! それに私達は友達でしょ? あんまり気にしないでよ佐奈」紅羽は爽やかな笑みを見せる。「もうゲームは始まっているから早くモグラを叩かないと駄目だよ」

……友達だからお金を返さなくていいと言うのは、ちょっとよろしくない考え方だと思うが。

私はぴょこぴょこと浮かび上がってくるモグラを見てハッとする。

「本当だ! 早く叩かないと!」そう言って私はハンマーでモグラを叩き始めた。


私と紅羽は商店街を歩いていた。

ゲームセンターから出た私と紅羽。紅羽の寄り道しようという意見に賛成し、いつもとは違う道を歩いているうちに商店街に辿り着いたのだ。

「一つも叩けなかった……」

私は俯きながら落ち込んで言う。
「まさか佐奈があそこまで鈍感だとは思わなかったよ! モグラ叩きでモグラを一匹も叩くことが出来ないなんて……、はははっ」

紅羽は我慢できないといった様子で笑い出す。

「ふふふっ、自分でも、まさかあそこまで自分が鈍いとは思わなかった」

私も思わず吹き出す。反射神経が鈍い人でも、モグラ叩きで出てきたモグラに一回ぐらいはハンマーを当てることが出来るだろう。でも私は一回も当たらなかった。

自分の不器用さを笑う。

途中からゲームを始めたため、時間が足りなかっただけだったらいいのだが……。