「では、授業を終了します」

教室にある壁掛け時計の針が十時を指したところで、国語の授業が終了した。

今日の日直が黒板に書かれた白い文字を、黒板消しを使って消している。となりの席に視線を向けたが、つぼみの姿は教室にはなかった。

「なぁ、願。今日、なんでちこくしたんだ?」

呆然と窓の外を眺めていると、すぐ近くから男性の低い声が僕の耳に聞こえた。

「………」

僕は、声のした方に視線を向けた。視線を向けた先には、尊人の姿が僕の目に見えた。

「なんだ、尊人か」

そう言って僕は、再び窓の外に視線を向けた。

窓の外から見える空は、波状雲が広がっていた。

「なんだよ、その言い方。こっちは心配してるのに」

尊人は空いていたつぼみの席に座って、桜色の唇をとがらせた。

「べつに、心配してくれとは頼んでないし」

僕は、そっけなく言った。

「なんか最近、俺に怒ってない。気のせい?」

尊人が、眉を八の字にして小さな声で訊いた。