午前八時三十五分、僕たちは学校の駐輪場に自転車を止めていた。駐輪場にはたくさんの自転車が止まっており、制服を着た学生たちが、手にカバンを持って自分たちの教室に向かっていく。

「なぁ、尊人」

「なんだ」

尊人が自転車の前カゴからカバンを手に持って、僕に視線を向けた。

「お前って、広瀬のことを下の名前で呼ぶのなんか抵抗感じたりしないの?」

「どうして?」

尊人は、不思議そうに首をかしげた。

「どうしてって言われても、よくわからないけど………」

僕は、わずかに首をかたむけた。

「お前も、呼べばいいじゃん。べつに幼稚園からの付き合いだし、呼び名なんてどうでもいいだろ」

尊人は、さらっと言った。

「そりゃそうなんだけどさぁ」

僕は顔をしかめて、駐輪場を出て自分の教室に向かった。

彼女とは幼稚園のときからの付き合いで、呼び名なんて気にせず、僕も小さいころは広瀬のことを下の名前で呼んでいた。でも最近、彼女のことを意識してるつもりはないが、広瀬を見ると僕の心臓が激しくなる。