「願、野菜も残さず食べなさいよ」

「わかってるよ」

「えっ！」

僕から返ってきた言葉がいつもと違うせいか、母親は目を丸くして驚いた。

僕は、小鉢に入っていた野菜をおはしでつかんで口の中に入れた。

シャキシャキとした新鮮な野菜の音と、僕の口の中に広がるみずみずしい食感。野菜特有の二つの音と味が、口の中で音を立てておいしく感じられた。

「願、野菜食べられるじゃない？」

僕が野菜を食べている姿を見て、母親は驚きの声を上げた。

「僕だって、野菜ぐらい食べれるさぁ」

そっけなく言って、僕はテレビのリモコンボタンを人差し指で軽く押した。テレビ画面が明るくなり、若い女性が今日のお天気を報道していた。

『十日間続いた夏のように暑かった日から一転、今日から本格的な秋のシーズンになります。日中の最高気温は二十度近くまで上がりますが、反対に夜は八度まで下がります。紅葉も咲き始め、秋の訪れを感じます』

なめらかな口調で伝えたいお天気おねえさんの表情は、笑顔だった。

ーーーーーーほんとうに、つぼみと別れてしまうんだなぁ。

季節が僕のきらいな秋のせいだろうか、〝別れ〟っていう言葉がいつも以上に悲しく感じる。