「やっぱり野菜、食べないんだね」

つぼみは眉を八の字にして、僕に視線を向けて訊いた。

「きらいなんだよ」

僕は、短く答えた。

「広瀬だって、きらいな食べ物あるだろう?」

僕は、チョコレートのパンを少しかじってつぼみに質問した。

チョコレートクリームの程よい甘さと、パンのやわらかい生地が僕の口全体に複雑に絡み合う。

「ないよ」

そう言ってつぼみは、自分のべんとうに入っていたカットされたにんじんをおいしそうに食べた。

「ほらね」

ほんとうにつぼみにはきらいな食べ物はないのだろうか、彼女は僕に笑顔を見せた。

「野菜も食べないと、体が悪くなるよ」

「僕だって、食べられるようになるよ。いつかは………」

つぼみに自信満々に言ったが、語尾が小さくなっていたことに僕は不安を感じた。

「じゃ、約束ね」

「えっ!」

私と別れる前に、野菜を食べること」

つぼみの半ば強制的な言い方に、僕はぼうぜんと固まっていた。