「おくれてすみません」

僕がそう言って教室の扉を開けたのは、午前九時五十五分だった。ちょうど一限目の授業が終わるころの時間だろうか、教壇の上に立っている数学の若い男性教諭から、「もう少し、早く来なさい」と、軽く注意された。

「は、はい。すみません……」

軽く謝って、僕は自分の席に慌てて向かった。そしてとなりの席に座っている、つぼみにゆっくりと視線を向けた。

一周間以上見てないせいか、久しぶりに見るつぼみの横顔は……美しかった。



壁掛け時計が午後十二時を指したとき、教室全体に昼休みを知らせる高いチャイムが鳴った。

「じゃ、今日はここまで」

女性教諭がそう言ったのと同時に、僕はカバンから昼食を取り出した。

昼夜忙しく働いている母親は僕のべんとうを作る時間はなく、今日の昼食はコンビニで買ったチョコレートのパン二つという、とても栄養不足な昼食だった。