「彼女アメリアさんって言って、さっき男の人に追いかけられている所を助けたんだ。それで……」
「そういう事か! 警察に連絡をすればいいんだな」
唐突に話すハル君に、なるほどとおじさんは頷き携帯を取り出した。
「え? 違うよ!」
「違う?」
慌てて言うハル君の方を見て、じゃ何だと言う顔つきになる。
「アメリアさん、異星人みたいなんだ!」
その突拍子もない言葉に一瞬静まり返った。何故そうなるのだろうか? 確かにマリアさんには見えていないようだけど、そこで何故、異星人なのよ!
「何を言っているんだ……?」
「なるほど! それならわたくしに見えないのも納得できますわ!」
力強くマリアさんが頷く。納得しちゃうんだ……。
「はぁ……。お前達は父さんの影響を受け過ぎた! 何が宇宙人だ!」
「宇宙人じゃなくて異星人!」
ハル君は抗議する。大して変わらないような気もするけど……。
「どこが違うんだか。いいかい。魔法使いだって信じてもらえない世界なんだぞ。そもそもなぜ、異星人だと言えるんだ!?」
うん? 何故ここで魔法使い?
「それは、マリアさんに彼女の姿が見えないから!」
ハル君の言葉にお父さんはマリアさんを見た。彼女は真面目な顔で頷く。次にアメリアさんを見た。
「見えていない様です」
「他人を巻き込んで何を企んでいるんだ! いい加減にしろよ!」
彼女の言葉を聞いて、隣に座る二人に言った。
「マリアがそんな事に協力する訳ないだろう? 俺達以外の人間にも見えていないみたいなんだ!」
カナ君は、そうおじさんに反論する。
「しかし魔法使いならまだしも異星人って……」
ちらっとマリアさんとアメリアさんを見ておじさんは呟く。確かにマリアさんがこんな訳の分からない芝居はしないと思うけど、何故魔法使いと比べる必要があるのだろうか?
もしかして……
「ハル君のお父さんって魔法使いを信じている?!」
「俺達に出会った時に、アメリアさんはこの世界の人って言ったんだ! という事は地球人じゃないって事だろう?」
カナ君の説明に被るように、私は至った答えを口に出していた!
一斉に叫んだ私を皆が振り返る。
「何を言っておりますの? ルナ。当たり前ではありませんか。おじさまも立派な魔法使いでしてよ」
「え……?」
マリアさんのまさかの説明に私は目がテンになる。信じている所か本人も魔法使いだと言う。
「ちょっと待て!」
おじさんが私達の方を向いてそう言った。
やっぱりマリアさんが思い込んでいるだけね。
「もしかして、ルナって小学生の頃、近所にいたルナちゃんか?」
訂正をすると思いきや違った。
「あ、はい。よくおじゃまをして……」
「いやぁ大きくなったな! ルナと聞くまで気づかなかったよ。……そうだな。ルナちゃんも見えているとなると、アメリアさんが魔法使いからかもしれない。どうです? アメリアさん」
……うん? 懐かしむ話ではなくて? 結局魔法使い? 意味わかんないんですけどぉ!!
「魔法使いです。……もしかしてこの世界では魔法使いは珍しいのですか?」
注目する中アメリアさんは、躊躇する事無く魔法使いだと言い切った! ついて行けてないのは、私だけの様です……。
「やはりそうか! 父さんにそんな事を聞いた事があった。普通は魔法使いはこの世界の人間には見えないって!」
おじさんは驚く事を口走った!
段々とおかしな方向に話が流れている。……もう訳がわかりません!
「ねえルナ。アメリアさんは魔法使いという事で宜しいのでしょうか?」
あ、そっか。アメリアさんの声が聞こえないのね。……そういう事にしておかないと話が合わない? 合ってもおかしいけどね。
「本人はそう言っていますけど……」
「なら、話は簡単ですわ!」
私の返事を聞きマリアさんは立ち上がった。そして向かい側に座っているおじさんにこう言った。
「おじい様はどこですの? 今すぐ儀式をして頂きたいですわ! そうすればわたくしが魔法使いになりますわ! アメリアさんが見えれば仮説が正しい事が証明されますわ!」
「なるほど! マリア冴えてる~」
「確かにそうだね!」
「あ、えっと、無理かな……」
二人は賛同しおじさんに注目するが、困惑した顔つきで言った。
そう無理だよね? 魔法使いなんていないんだから! そもそもこの話から行くと私も魔法使いって事になりますから!
そりゃ小学生までは信じてましたよ。あの凄い儀式があったからね。魔法陣が浮き上がって光り輝いて……。小学生ならコロッて騙されちゃいますよ!
「なぜですの?」
「なぜっていないから……」
うん? 出来ない理由はいないから? それだけ?
「あ! そういえばおじいちゃん達、昨日から旅行に行っているんだっけ?」
「そうだ! おばあちゃんと故郷に帰るって言っていたな」
ハル君が思い出したように言うと、カナ君もそうだったと頷く。
「故郷ってどちらですの?」
「それが知らないんだ……」
「ご自身のご両親のご実家をご存知ないのですか?」
マリアは驚いて言った。それには私も驚いた。
「そういえば僕。おじいちゃんの実家の話しっていったら、自然が豊かという事しか知らないや」
「そうではないでしょう? お出かけになったのですよね? 知らないのなら聞くのが当然ですわ! 本当はどちらに!」
そう言われればそうだ。知らないはずない! ほらやっぱり、儀式なんて出来ないのよ!
「もしかして、僕達に内緒で入院したとか?」
「いや、入院はしていない」
ハル君が心配そうに聞くとそうではないと否定する。
「旅行ではないんだよね?」
「いや、母さんは、故郷に一足先に帰った……」
「で、おじい様は?」
両手を腰にあてマリアさんは凄んだ!
「わかった。ちょっと待ってろ」
観念したのか、おじいちゃんを呼びに行った。
っと、思ったんだけど、赤い本を手に戻って来た。それを自分の目の前のテーブルの上に置いた。
「何この本?」
「本?」
ハル君が呟くと、マリアさんが首を傾げる。
「父さんが作ったものだ」
「作ったですって!」
おじさんが説明すると、声を上げて驚いたのはアメリアさんだった。その声にマリアさん以外は彼女に振り向いた!
「え? 何ですの? アメリアさんが何か言いましたの?」
マリアさんだけが、状況がわからない様子。これって本当に聞こえてない?
「この本の事を知っているのか?」
マリアさんの質問はスルーされ、おじさんはアメリアさんに問う。彼女は問いに頷き、ローブから本を出した。持って来た本と同じ赤い本。
そう言えば、男の人がアメリアさんに本を渡せって言っていたっけ……。
「それは! 君だったのか! 父さんが言っていた人は!」
「え? 何か言って出かけたの?」
「この本をリードする物が来るって……」
頷きハル君の質問に答え、テーブルの上に置いてある本を指差した。
「あー! もう! 全然わかりませんわ!」
皆が本に注目していると、突然マリアさんが叫んだ!
「わたくしだけ話しについていけてませんわ! 本って何ですの!」
その言葉に今度はマリアさんを皆凝視する。
「もしかしてマリア。この本も見えてないのか?」
「もしかしなくても見えておりませんわ!」
「マジか……」
マリアさんの答えにカナ君は呟く。
「ねえ、おじいちゃん呼べないの?」
ハル君は、おじさんに問うが、すまなそうに口を開く。
「その事なのだが、この本をリードして本から出さないといけない……」
どういう意味だろう? 私達は顔を見合わせた。
「本から出さないとって、おじいちゃんをって事?」
ハル君の質問におじさんは頷いて答える。
「え? その本っておじいちゃんが作ったって言わなかったっけ?」
ハル君が驚いて更に質問をする。って、驚くところそこではないでしょう!! おじいちゃんが本の中にいるって言っているんだよ!
「そうだ。作るのをこの目で見たからな」
「何ですって! わたくしも拝見したかったですわ!」
「僕も見たかった! なんで呼んでくれなかったんだよ!」
「俺も! 見たかった!」
「そう言われても……」
もう抗議にタジタジ。
うん。全員魔法使いを信じているって事ね。なんだか段々慣れて来たよ……。
「あの、お取込み中すみませんが、その方のお名前はリアムさんといいませんか?」
「いえ違います」
突然アメリアさんは質問をしてきた。そもそもその名前日本人の名前じゃないし。まあ、今ならキラキラネーム系でありかもしれないけど。
「アメリアさんはなんて質問を?」
「おじいちゃんの名前を……」
なんか魔法使いを否定しているのがバカバカしくなってくる。――魔法使いを信じていいと思っちゃうじゃない……。
「そのおじいちゃんが言っている方は私ではないですが、リードはできますよ」
私が魔法使いに妥協しはじめた時に、アメリアさんはそう言ってきた。
「え? 本当? お父さん頼もうよ!」
「いや、しかし……」
「え? 何ですの?」
「アメリアさんが、おじいちゃんを本から出せますって」
「え? それ本当ですの?」
私の翻訳? にマリアさんも驚く。
「頼む前にさ、ちょっと聞きたいんだけど……。そのリードってそもそも何?」
カナ君がまともな質問をした!
「え? いや、父さんがそう言っていただけだから……」
つまり知らないみたい。自然と回答を求めアメリアさんに視線が集まる。
「この本、その本もそうですが、私の世界では精霊の本といいます。リードとは、その本を進ませエンドさせる魔法の事です」
アメリアさんは皆に説明を始める。私は、聞かれる前にマリアさんに復唱して聞かせた。
「ありがとう、ルナ」
それにマリアさんは嬉しそうに礼を返してくれた。
「通常本にはエンド設定して作成します。リード条件が整えばその魔法を使いエンドさせるのです」
「条件? お父さん聞いている?」
「そういえば、魔法使いの儀式を受けた者を本の中に召喚する事って言っていたような……」
おじさんの言葉にハル君とカナ君は頷きあう。
「それって僕達の事だよね?」
「だぶんな……」
「ちょっとお待ちになって!」
マリアさんは、冷ややかな目つきで二人に言った。私がリアルタイムで翻訳をしていたので、アメリアさんが言っていた言葉を聞いている。
二人もマリアさんが言いたい事はわかっているんだと思う。
「あ、ほらおじいちゃんが戻ってきたら儀式してほらえば……」
でもカナ君はそう言った。勿論マリアさんは……
「絶対嫌ですわ!」
と、返事を返した。
今、この状況を打破する為におじいちゃんを呼びたいのに、結局二人で行くと言っているのだから納得いかないんだと思う。
「あの、アメリアさん。儀式なんて出来ませんよね?」
「ごめんなさい。私達の世界にはないものです……」
もしかしてとハル君が聞いたけど、アメリアさんはすまなそうにそう返して来た。彼女の世界では、儀式は行われていないようです。
さて、どうしたらいいのか……。
「おじさまがなされば宜しいですわ! おじい様のお子様なのですもの! 出来ますわよね?!」
マリアさんが無理難題な事を言い出した! 私から見て魔法使いだとしてもおじさんが出来る様には見えないんだけど。
……って、いつも間にか魔法使い設定で考えていた! やばい私も毒されてきた……。
「仕方がない。マリアさんだけ除け者にするわけにもいかないし。もしもの為にって父さんが用意していったものがあるから。……ちょっと待ってて」
うーんと唸っていたおじさんはそう言って立ち上がり、部屋を出て行った。
うん? おじいちゃんが用意した物を取りに行った? って、何する気?
驚いているとおじさんは戻って来てテーブルの横の床に何か広げた。
「何? 何?」
ハル君がそう言って立ち上がる。いや、全員立ち上がっておじさんに注目する。
おじさんが持って来た者は、一メートル四方の紙でそれに大きな円が書いてあった。
「マリアさん、円の端に立ってもらってもいいかな?」
「円ですか? それはどこに?」
おじさんに言われ、マリアさんはしきりに円を探してる様子。見えないんだあれ……。私には紙に大きく描かれた円が見えていた。多分マリアさん以外には見えていると思う。
「そうか、見ないか。じゃ紙の端に五センチ程離れて立ってもらえるかな?」
「はい」
マリアさんは頷くと、躊躇なく立った。おじさんはマリアさんの髪を挟んだ向かい側に立ち、両手をマリアさんに出した。
「嫌かもしれなが、手を握って目を閉じてもらえるかな?」
「問題ありませんわ。お願いしますわ」
これも躊躇する事なく、出された手をしっかり握り目を閉じた。
これって本当に儀式をするつもりじゃ……。
「ただ純粋に魔法使いになりたいと思うだけ。それが本物であれば必ず成功する……」
「ずっと想い続けて来た事ですわ!」
おじさんの言葉に当然とマリアさんは返す。
――魔法使いになれると強く想う事。
おじいちゃんの言葉を突然思い出す。そして目の前でまるで再現の様に円が光り始める。それは魔法陣のような模様が光として浮かび上がり、私があの時感じた感情を呼び起こす。
――これで魔法使いになれた!
心から喜んだ事を思い出した……。
手品何かではなかった。本当に儀式だったんだ!
誰も信じてくれなくて、手品だって言われて風化していった想い。私の魔法使いへの想いが、マリアさんの儀式と共に蘇った!
「すごいですわ! 足元が光っておりますわ!」
目の前では、魔法使いになった事を噛みしめて喜んでいるマリアさんがいた。
勿論、二人も喜んでいる。
「やったぁ! これでマリアさんも魔法使いだね!」
「いやぁ、さすがおじいちゃん! 用意周到!」
「おじさまありがとうございます!」
おめでとう! マリアさん!
私も心の中でお祝いした。
「あ、これが本なのですね!」
テーブルに置かれていた本に気づき、マリアさんは喜びの声を上げる。そして顔を上げ、アメリアさんの姿が目を止める。
「あなたがアメリアさんですの? 先ほどまで失礼を致しました。これから宜しくお願いしますわ」
「成功したようで何よりです」
二人は微笑みあう。
「はぁ……。成功してよかった」
紙を片付けながらおじさんがぼそりと呟いた。どうやら自信はあまりなかったみたいね。って、おじさんも儀式を受けたのだろうか?
「アメリアさん。本当にリードをお願いしても?」
「はい。条件も整ったようですし、早速行いますか?」
私がそんな事を考えていると、話が進められていく。アメリアさんの問いに私以外の全員が頷くとアメリアさんは頷いた。
「では、そちらの広いスペースにその本を置いて頂いて、召喚される方は本を囲む様に立って下さい」
アメリアさんの説明でおじさんは、本を床に置いた。そして、ハル君達は本を取り囲む。
「ルナ、何してるの? 始めるよ」
そう言って、ハル君は私に手を出して来た。まるで昔の儀式の様に……。
「私もいいの?」
「君も魔法使いじゃないか」
「仲間だろ?」
「早くしてくださないな」
カナ君と手を繋ぐマリアさんも私に手を伸ばす。私は近づき二人の手を取った。
何か凄くドキドキする。ううん。ワクワクする!
「では宜しいですか?」
アメリアさんの言葉に私達は頷いた。
「お願いします」
おじさんもそう返す。
アメリアさんは私達より少し離れた所に立っていた。
「召喚される時に眩しく感じると思うので、目を閉じているといいと思います。では、いきます!」
私達は、アメリアさんに言われた通り目を閉じた。
その後すぐに目を閉じていても外が明かるのがわかるぐらいの光を感じた!
光が納まると私はふわりと体をすり抜ける暖かい風を感じた。
うん? 風?
「おぉ、すげぇ!」
「まあ。素晴らしいですわ!」
「本当に召喚されたんだ!
三人の声に促され私も目を開けて驚いた! 皆が言う様に私も感動!
そこには澄み切った青空。そして地平線まで続く草原。
空には雲一つなく、地上には建物どころか道すらなかった。
「あー!」
と突然、大きな声が聞こえ振り向くと、カナ君が私達に向けて指を指していた。声を上げたのはどうやらカナ君みたい。一体どうしたというの?
私は、自分の体をあちこち見てみるが、特段変なところはない。制服も汚れていない。
「制服じゃん! ずるい!」
「ホントだ!」
へ? 制服? 何故ずるい……。
カナ君が言うとハル君も同意した。
「見かけを気にする割には、抜けてますわね!」
何故かマリアさんがどや顔で二人に言った。
また意味がわからない会話が……。
「えっと、一体何がどうなって……」
一応訪ねて見ると、三人共驚いた反応を示す。
「召喚されし者の鉄則じゃん! 制服での召喚!」
「そうですわ! 本当に二人はぬけておりますわね!」
「あぁ! 僕達着替える時間があったのに!」
「………」
そんな事ですか!
私は彼らのこだわりが凄すぎてよくわかりません!
「次こそは!」
しかも召喚されたばかりだというのに、カナ君はこんなセリフを言っているし……。
「さてとじゃ、おじいちゃんを探すか!」
気を取り直してカナ君が言うと私達はそれに頷いた。
「でも、どこを探せば……」
「どこってあっち。これも常識!」
何もないのにと思っていたが、いつの間にか一本の木が立っていた!
いや絶対さっきまであんなのなかったって!
「さあ、行こうぜ!」
「うん。行こう!」
「行きましょう!」
私が驚いている内に三人は走り出した。
「え……ちょっと待ってよ!」
私も三人を追いかけた。
草原の草は、二十センチぐらいの背丈があり、その中を私達は全速力で駆けて行く。
私は別に全速力でなくてもいいんですけどぉ!
心の中で叫びながら三人を追いかけた。やや遅れて到着すると、木の前で三人が顔を見合わせている。
何だろうと膝に手を突いて息を整えつつ目をやった。
「え……」
木の前に緑の衣装を身に纏った金髪の青年が立っていた!
一瞬、アメリアさんを追いかけていた男の人かと思ったけど、明らかに顔が違った。しかし服装は一緒だと思う。
一体どういう事?
「どういうことなのでしょうか?」
マリアさんの言葉にうーんと首をひねる二人。三人も私と一緒できっとあの男の人の仲間だと思っているに違いない!
「おじいちゃんは、どうしたんだろう?」
不安な顔でハル君は言う。
「取りあえず聞いてみるか……」
カナ君はそう言って皆に頷いてから、男の方を向いた。
「あのすみませんが……」
「なんだ、その他人行儀は? しかし四人とは驚いた」
カナ君が話しかけると、さもこちらを知っているような口ぶりで返された。
私達は顔を見合わせる。
本当に私達の事を知って人なのだろうか? 私には外人の知り合いはいませんが。
「なんだわからんのか……」
少しからかうようにさらに言って笑う。
私達は彼を探るようにジッと見つめる。
碧い瞳は優し気で誰かに似ているような気がする。
誰だろう? 笑顔が誰かに……
「おじいちゃんだ……」
そう思って呟いていた。若い頃のおじいちゃんなんて知らないけど、何故かそう思った。三人は驚いて私を見た。
「ルナか? 久しぶりだな」
そう言ってまたほほ笑んだ。
「え? 魔法で変身しているの?」
ハル君がおじいちゃんだと思って聞いた。私をルナと呼んでいたのは後は、おじいちゃんだけだ。
「いや、これが本来の姿だ」
「「「「えー!」」」」
おじいちゃんの答えに私達四人は綺麗にハモった!
だって今のおじいちゃんの姿は、おじさんより若い二十代ですよ! 若返り過ぎてませんか?!
「本当におじい様ですの?」
「あ、もしかして! アメリアさんが探していたリアムって言う人じゃない?」
「本物のおじいちゃんと入れ替わっているって事か?」
三人はまだ疑っているようでそう言いあう。確かにおかしいけど、私をルナって呼んだんだよね……。
「なんだ三人共疑い深いな。確かに向こうの世界での名前はリアムだが、正真正銘お前達のおじいちゃんだ! まったく、もうそろそろ魔法が使いたいだろうとこの場所を用意したというのに……」
おじいちゃん? は、さも残念そうに言う。
「それを早く言ってくれよ!」
「まあそれで、わたくしにも儀式を出来る様に用意を? ありがとうございます」
「なるほど! それで儀式を行った者を召喚なんだ! 納得!」
三人共態度をコロッと変えた……。この変わりよう何? まあ、たぶんこの人はおじいちゃんだと思うけど。ただ、本当に本来の姿なのかなぁ?
それにしても三人の扱いがお上手です事!
「取りあえずは、私がおじいちゃんで納得したか?」
納得したと今度は素直に三人は頷いた。
「ちょっとまってよ! その衣装に向こうの世界って! おじいちゃんって地球の人間じゃなかったの!?」
「「「えー」」」
思い当たると私は叫んでいた! そして三人もハーモニーで驚きを露わにする。
ハル君達は、アメリアさんを異星人だと言った。多分、色は違うけど同じところから来たんじゃないかな? と私は推測した。
「お待ちになって。おばあ様が故郷に帰ったというのは、もしかして別の世界ですの? だとしたら、おばあさまの異世界の方になりますの?」
「その通りだ」
おじいちゃんはそうだといとも簡単に頷いで見せた。
言われてみれば、その可能性もあった。でもまさかおばあちゃんも異星人なんて! って、おばあちゃんも魔法使い? って、ハル君の家族って魔法使い一家?!
うん? でも何でハル君達は儀式をしたんだろう? 地球で生まれたからだろうか?
そんな事を考えているとハル君が質問をして話を聞き出していた。
「じゃ、お父さんって地球で生まれたけど地球の人間じゃないとか?」
「そういう事だな」
「……じゃ俺も母さんも地球の人間じゃないのかよ!」
勿論だ。だた二人は地球の人間と結婚をしているからお前達はハーフってところだな」
「ハーフ!」
「……すげー!」
聞き出していたけど、自分がハーフだと知って状況に酔いしれている……。半分地球の人間じゃないんだけどいいのだろうか?
「まあ、その話は今度時間がある時にでもするとして、今は魔法の事を話そうか」
「ぜひ聞きたいですわ!」
マリアさんがそう言うと二人も頷く。三人共目が輝いている。
「……あ、あのさ。そんなんでいいの? 自分達が地球の人間じゃないかもしれないんだよ?!」
「楽しみは取っておかなくちゃ」
「ほらエンドして、ここからでなくちゃいけないだろう? その話は後でじっくりきくからさ!」
「そう……」
二人は半分異星人の血が混ざっている事に逆に喜んでいるみたい。……本人がそれでいいならいいか。それに今は魔法使いの事を聞きたいみたいだし。
「では、お願いしますわ。おじい様」
マリアさんも話が楽しみな様でそう言って急かした。
「まずは、おめでとう!」
おじいちゃんがそう言うが私達はキョトンとなった。何を祝われたのかわからない。
「誠《まこと》には魔法使いの儀式を行った者と伝えたが、正確には儀式を行って魔法使いになった者だ。そういう事でお前達は、ちゃんと魔法使いになっているという事だ」
「……うん。そうだね」
「なんだ、リアクション薄いな……」
ハル君が頷いて答えるも、おじいちゃんが想像した反応と違ったみたい。まあ、私達はもう既に確信してしまっているからね。
「しかし、四人とは驚いた」
そっか。本来は多くてもマリアさんを入れて三人の予定だった。私は偶然居合わせただけの存在。しかも、さっきまで魔法使いの事を信じていなかった……。
「ごめんなさい……。勝手についてきちゃって……」
「驚いたというのは、来てくれるとは思っていなかったという意味だ。嬉しい誤算だった」
私の言葉におじいちゃんはそう言ってくれた。
「嫌ですわ。泣く事などありませんわよ」
「そうだよ。喜んでいるんだよ」
「そうそう。ルナだって魔法使いなんだからな」
私の頬にいつの間に涙が伝っていた。別に泣こうとしたわけじゃない。なんとなく、裏切った気分になっていた。
三人は泣き出した私に驚いて声を掛けてくれた。
「違うの。私、魔法使いの資格ないから……」
「ないってなんで?」
ハル君が不思議そうに聞いて来る。ここにいるのだから魔法使いであるのは間違いないから。
「皆を騙していたから……」
四人は顔を見合わせる。
「おかしな事を言いますのね。わたくしたちが知り合ったのは昨日ですわよ?」
「あ、もしかして小学生の時の話?」
ハル君が思い当たり聞いて来るけど私はそれに首を横に振る。
「私は、魔法使いを信じていなかったの……」
私は騙していた内容を口にした。
「信じてなかったって……。ルナ、魔法使いになれているよね? ここにいるんだから」
ハル君はまた不思議そうに言った。私はそれに今度は頷いた。
「うん。儀式をした時は信じていた。……ハル君が引っ越ししていなくなってからもずっと信じていた。でも……中学生になって、魔法使いの話をすると皆に笑われるようになって、親からもあれは魔法じゃなくて手品だよと言われて……」
「それで、魔法使いを信じなくなっちゃったの?」
悲しそうにいうハル君の言葉に頷いた。
誰も信じてくれなかった。しかも私は魔法を使えない。魔法使いじゃない! そう思う様になった。
「引っ越しして北海道に来てからは、転校先の学校では魔法使いの話は、一回もした事はなかった。私は魔法使いになりたい想いを捨てたのよ!」
「捨ててないだろう? ここについて来た。魔法使いになりたいって……魔法使いでいたいって想いがあったから来たんだろう?」
「うん……」
カナ君の言葉の通りマリアさんの儀式を見て、あの時の想いを思い出した。でもそれまでは、ずっと否定していた……。
「それはすまなかった。あの時は、自分達の事で精一杯で……。ルナにちゃんと言っておかなかった私の責任だ」
「え? おじいちゃんのせいじゃ……」
私が否定しようとすると、おじいちゃんは首を横に振る。
「いや、魔法使いの事は皆に内緒だと、一言伝えておけば済んだ事だ」
「ルナ。あなたは魔法使いでしてよ。わたくしと同じ新米の魔法使い。わたくしの儀式の時にあなたも一緒に魔法使いにまたなったのよ!」
そうだね。あの時、この想いを取り戻した……。
「マリアさん、ありがとう……」
「まあ、おじいちゃんが悪いのは当たり前だな。俺達はちゃんとそう言われていたんだからな」
腕を組みうんうんと頷きながらカナ君は言う。言われていたの?
「え? そうなの?」
「うん。僕達周りには言ってないよ。親にも止められていたし」
まあ、言えば私の様になるのは目に見えているもんね。
「……ごめんね、ルナ。僕しらなくて。一人だったら心細くなって、そうなっちゃうよね」
「もう大丈夫ですわ! わたくしたちがおりますもの! 一人ではありませんわよ」
「ルナ、運がいいぜ! これから魔法の修行が出来るみたいだぜ!」
「うん。ありがとう」
今度は私はうれし涙で頬を濡らした。
「改めて、宜しくね!」
その涙を拭いて元気な声で私は言った。皆は笑顔で頷いた。
「さて、話はまとまったようだし、話を始めるか」
おじいちゃんは、私達を見渡してそう言った。三人はキラキラと目を輝かせおじいちゃんに向き直る。
「で、今回はどんな話?」
カナ君が待ちきれないとばかりに聞く。
「さっきも言った通り、魔法の話だ。で、ルナもいる事だし基本的な魔力の話から初めてみるかな」
うんうんと三人は頷く。私も一緒に頷いておく。
「魔法の元、魔力はどこから来るか覚えているかね?」
「はい! 地上からだよね! 台地の恵みなんだよね!」
まるで小学生のように手を上げ、ハル君は発言した。何か生き生きとしてる……。
「そうだ。魔力は地上からあふれ出している。但し我々人間は、その魔力をそのままでは使えない」
「え? じゃ、何かで変換して使っていたのか!?」
その事は知らなかったみたいで、カナ君は驚いて質問している。って、これ本当のお話し?
「そうだ。世界には精霊が存在し、そのモノ達が使う魔力に変えてくれている。……そうだな、光合成みたいな感じだと思えばわかりやすいかもな」
精霊! どんどんファンタジックな内容に……。いやすでにここに居る時点でそうだけど。
「精霊ですか。それはどのような? わたしくたちにも見えるモノなのでしょうか?」
「見えると思うぞ。どうだ?」
おじいちゃんがそういうと、スッと体から何かが出て来た!
それは女の子を形とっていて、背丈は大人の顔ぐらいで、体は透き通っていた。見た目は五つぐらいの女の子に見える。うっすらと光を放っているように見え、ふわふわと浮いている。
これが精霊?! って、本当にいたんだ!
「すげ~! 透き通ってるし!!」
「まあ、小さいのですね」
「おじいちゃんの体から出て来たけど、どうなってるの?!」
最後にハル君が驚いて言った言葉に私も頷く。まあ、透き通っているのだから通り抜け出来るんだろうけど……。
「私のマントの内側に隠れていただけだ。彼女は私のパートナーだ」
『はじめまして。パルミエです』
「「「しゃべったー!」」」
「お話もできるのですね」
話せると思っていなかったので私達は驚いた。知能もあるのね。
「で、パートナーって? 何のパートナー?」
カナ君がジッとパルミエちゃんを見ながら質問をする。
「精霊は元々は地上から出ている魔力が凝固したモノだと言われている。そしてそれが意思を持ったモノが精霊だ」
それって魔力そのモノって事なんだろうか?
「簡単に言うだな、精霊は魔力の塊という事だ。でだ、その塊を精霊塊《せいれいこん》と呼ぶ。最初は意思も何も持たずに魔力の変換を行っているだけだが、長い年月をかけ意思をを持つようになると精霊になる」
おぉ! ビンゴ。意思を持った魔力なんだ。すごいなぁ……。
「すごいですわね! 魔力が意思を持つなんて……」
「形も人間のように変化したって事だよね?」
「すげー」
「すごいだろう? この精霊が我々人間と契約を結ぶと放出する魔力を直接受けれるようになるって訳だ」
「じゃ、パルミエさんっておじいちゃんにだけ魔力を供給しているの?」
ハル君の質問におじいちゃんは頷く。
なるほど。精霊と契約してパートナーになると個人的に供給してくれるようになるってことね。そんな仕組みがあるなんて!
「あ、でも。そこら辺に精霊っているんだよね? それに精霊魂もあってパートナーになるメリットってある?」
よく考えればパートナーになる必要がないような……。
「私がいた世界では契約していなくても暮らしていけるな。まあ、魔法使いとして精霊に認めてもらったというところだろうか」
なるほど。精霊に認められたって事になるのか。それがどんな意味があるか知らないけど。
「だが、地球には精霊魂は見かけたが、精霊にはお目にかかった事はない」
なるほどと頷いていると、おじいちゃんは驚く事を言った! 精霊がいないですって! それってどういう事? あ、そう言えばこの前、ハル君がこの世界は魔力が少ないって言っていたっけ。少ないから精霊がいないって事?!
「え? なんで?」
「答えは定かではないが、考えられる事はいくつかある。一つは地球にある物質でアスファルトやコンクリートの類は、魔力を通さないようだ。その事から精霊はおろか、精霊魂さえ街の中にはいない」
ハル君が聞くと、おじいちゃんは神妙な顔つきで答えた。
魔力が少ない理由が、私達が作り出した物だったなんて!
これって森とかにしか魔力がないって事だよね?
「そして精霊がいない要因として、魔法使いがいない事があるかもしれない。いや、正確にはいなくなったからかな」
とおじいちゃんは続けた。
「それって。魔力があっても精霊が誕生しないって事?」
「それはわからないな」
私の質問に首を横に振って答えた。
「魔法使いがいなくなったっていうのはどういう事ですの?!」
「実はお前達に行った儀式は、魔法使いの血を目覚めさせる儀式だったのだ。星空《かなた》と陽翔《はると》は私の血を受け継いでいる。当然、目覚めるだろう。そしてマリアとルナ、お前達は生粋の地球人だ。つまり地球の人間にも魔法使いの血は流れていた事になる。その事からも魔法使いは存在していた事は確かだ。だがしかし、何らかの原因で魔法使いはいなくなり、精霊も一緒に消滅したと考えられる……」
おじいちゃんの話は壮大だった。
私達はおじいちゃんの話を聞いて大きなため息を漏らす。
色々と凄すぎる!
「すげー話だな」
「僕達の想像を超えてるよ」
「わたくしとルナはもしかしたら魔法使いなれなかったかも知れなかったのですか?」
「そうだな」
少しすまなそうにおじいちゃんは頷いた。
「おじいちゃん、地球でどうやって暮らしていたの?」
「そう来るか。別に魔力がなくなっても私は魔法が使えなくなるだけで、弱ったり死んだりはしない。私はパミエル殿がいるからな。魔力は何とかなっていた。まあ、向こうの世界から精霊の玉も持って来ているしな」
私が魔力がなくても大丈夫なのかと思いおじいちゃんに聞くと、笑いながらそう答えた。言われてみればそうかも。それより、新しい単語が出て来た。
「精霊の玉?」
カナ君が代わりに聞いてくれた。
「精霊魂が精霊にならずに、もっとギュッと魔力の塊になったものだ。それには、我々も触れられるので回収して使っている」
「触れられるって、精霊魂には触れられないの?」
「魔力そのものは触れられないというか空気と一緒だな。精霊魂になって初めて目に見えるようになる。だが見える様になっただけで触れる事は出来ない。そして初めて精霊の玉になって触れらるようになるのだ。精霊の本は、精霊の玉で作製されている」
「そう言えば、なんで普通の人間には見えないんだ? マリアが精霊の本が見えなかったんだけど……」
精霊の本っていう単語を聞いて思い出したらしく、カナ君が質問をする。私達も頷く。とっても知りたい。
「これは憶測だが、魔法を使わなかくなった地球の人間は、退化したのではないかと思われる。つまり魔力に対応していない体になった。精霊の本はいわば、魔力の塊だからな」
「でもわたくしは、異星人の魔法使いも見えませんでしたわ」
「その事か。私の世界の人間は体に常時魔力を身に纏っている。それで見えなくなっているのだと思う。詳しくは私も説明すれと言われても出来ないがそういう事だろう」
「おじいちゃんは身に纏ってないの?」
ハル君は、ごもっともな質問をする。身に纏ってないから普通の人にも見えているって事だよね? まあ地球で生活するにあたって身に纏う必要はないけど……。
「私はその事に気が付いた時から隠れる時以外は身に纏わず、足の裏に魔力を留めている」
「え? じゃ、お父さんも?」
その質問には首を横に振った。
「誠は魔法使いだが身に纏い方を知らない。教えようと思ったのだが、そういう事を嫌がってな。まあ、この世界で育てたから魔法使いというのが気に入らなかったらしい」
確かに。自分は魔法使いだって言えば、変な目で見られる。それに魔法使いじゃなくても暮らしていける。……だから、ハル君達はそうならないようにした訳か。こんなに立派な? 魔法使いになったわけね。
「あらでも、儀式をしてくださいましたわよ」
「あれか? あれは条件さえ整えば発動するものだ。つまり行う本人達が魔力を使って行使するものではない。まあマジックアイテムの一つだな」
「まあ!」
「マジックアイテム!」
「ああいうのもあるのかよ!」
マジックアイテムに三人は、すぐさま反応する。
私はそれよりも違う事が気になる。
「あの、魔法って魔力を身に纏わないと使えないんですか?」
「いや使える。だが大量に必要な時には身に纏っていないと足りなくなる。そうだな。いっぺんに水を使いたいと思った時に、蛇口からだと限られるだろう。でも先に溜めておけばそこから使う事が出来る」
そういうもんなんだ。つまり周りの魔力を使うのに一回に使える量が決まっているって事かな? でも、地球では身に纏ってないと使えないか……。
「ねえ、おじいちゃん。お父さんって空飛べるよね。なんで?」
飛べるんだ! すご~い!! 今更だけど本当に魔法使いだったんだ!
「それか? 飛ぶ事だけは教えたからな。基本中の基本だからな。魔力の使い方をコントロール出来るようになれば、お前達だって使える様になる」
「本当ですの?」
「飛びたい!」
「俺もやってみたい!!」
「あ、私も……」
三人に紛れて私もそっと声を上げた。
「そう言うと思ってここを用意した。地球では魔力がないから飛ぶ事さえ困難だからな」
なるほど。そういう事か。アメリアさん達が歩いていたのって、魔力温存の為だったんだ。魔力が全然ないんだからそうするしかないよね。
「やったー!」
「さすが、おじい様。わかってらっしゃるわ」
「早速やろうぜ!」
三人は大喜び。勿論私も楽しみ。だって、こんな風景のところで空を飛べるなんて! 本の中とは思えないよ!