私は相沢さんを車いすに乗せたまま集合場所へ押して行った。

 「ありがとうございました。今日はこれで終了です。お疲れ様です」

 マリアさんは、何やらハンをもらったみたい。私は覗き込んだ。それは、先生から渡されたカードだった。

 「これを押してもらって終了なの」

 なるほど。滞りなく終了しましたって事ね。

 「お疲れ様。いかがでした? 初めての課外授業は」
 「あ、お疲れ様です。ちょっと疲れましたけど、楽しかったです。毎回こういう内容なんですか?」
 「いえ、色々でしてよ。美化活動でゴミ拾い。物を運んだり。相手に寄りますわ。将来、わたくしたちがやりたい事を見つける為の授業でもあるのですよ。百閒は一見に如かず。これが学校側の表題ですわ」
 「なるほど」

 私はマリアさんの話を頷いて聞いていた。色んな仕事を体験するって事ね。

 「おーい、マリア!」

 振り返れば、そこにはハル君とカナ君がいた。私達は二人の元に駆け寄った。

 「お仕事は終わったようですわね。お疲れ様。私達も先ほど終わったとこですわ」
 「間に合わなかったか」
 「結構急いだんだけどね」
 「そう言いながら、私服じゃん」

 残念そうに言う二人についそう言ってしまった。
 ハル君は、ブルーのパーカーとジーパンの上に紺のコートを羽織い、カナ君の方は、シャツとパンツはグレーで統一し、黒のジャケットを着ている。つまり制服じゃない!

 「仕方がないだろう? 制服に着替えて出てくるわけにはいかないんだから……」
 「僕達の正体を知っている人ってほんの一握りなんだ。私服で言ってこっそりトイレで着替えているんだよ!」

 私の言いたい事がわかったのは二人は言い訳をする。
 トイレで着替えって本当だろうか? だったらアイドルも大変だ。

 「涙ぐましい努力ですが、ファンの子が知ったら失望しますわね……」

 確かに。トイレで着替えはちょっと……ね。

 「……魔法で変身じゃないなんて!」

 え! 着替え方ですか? って、魔法って……。マリアさんは、信じちゃってるんだ。あの儀式を見ていないのに信じるって凄いわ。
 でもねマリアさん。私も流石に中学生になったら手品だって気が付いたよ……。

 「あのな……はぁ……」

 カナ君もあまりの事にため息しか出ないみたい。

 「僕も出来たらそうしたいよ。早く魔法を使えるようになりたい……。うん? 何あれ?」

 ハル君も信じてる? それともマリアさんに話を合わせている?

 「撮影? でも、カメラ見当たらないよな?」

 うん? 撮影? 私もつられ二人の目線の先を見て驚いた! だって、あの緑のお兄さんが走っていたから! しかも髪の長いお姉さんを追いかけている!
 お姉さんも金髪です。あの人も外人さんかな?

 「行くぞ!」
 「うん。助けよう!」

 そう言って二人は走り出した。助けようってあの女性は追われているんですか? どう見ても同志に見えるのですが……。お姉さんは色違いの水色のローブを着ているんですよ?

 「え? ちょっと二人共どこに行きますの? もう! 行きますわよ、ルナ」

 仕方なしに私達も追いかける羽目になった。
 公園の中は道が除雪してあるとはいえ、散歩する時期には早く今はもう私達しかいない。
 女の人はどうやら、二人が思っていた通り追いかけられていたようで、追い詰められて道から外れ、ズボズボと雪の中に足を踏み入れる。そして逃げ場をなくてして、木を背にして立ち止まった!
 追いかけていた男も雪の中に入り、女の人の前で立ち止まった。

 「その本を渡せ!」

 男が言うと女性はフルフルと首を横に振った。男は一歩近づく。

 「やめろ!」
 「警察を呼ぶよ!」

 カナ君とハル君が叫ぶと、男は驚いて振り向きそのまま走って逃げていく。

 「逃げたか。しかしどこの衣装だ?」

 あれはどこかの民族衣装なの? 私にはファンタジックに見えましたが……。

 「大丈夫ですか? あ、僕達は正義の味方です! 怖くないですから」

 ハル君は凄く怪しい声の掛け方をした。こういう時は、女性のマリアさんの方がいいのでは? って、日本語通じるのかな?

 「もう、陽翔ったら何を言っておりますの!」

 マリアさんも私と同じように思ったようです。私がうんうんと頷いていると……

 「……木に向かって」

 は? 木? もしかしてマリアさんは外人さん嫌いですか? 見えない事にしちゃってます?

 「木じゃなくて、木の側にいる女の人に言ったんだけど……」
 「どこにおりまして? 突然走り出しますし……どういうおつもりですの?」

 本当に見えない事にしています……。

 「どこって……」

 ハル君は困って口ごもる。って、マリアさんが呆れ顔をしている。あれ? まさか本当に見えていない? そう言えば、あの緑の男の人も見ていないって言っていたっけ……。

 「見えてないのか?」
 「見えていないのだと思います……」

 カナ君の質問にマリアさんではなく、女の人が答えた。
 どういう事?
 女の人が言った事はに二人はマリアさんに振り向いた。その行動にマリアさんは驚いていた。演技には見えないので、本当に驚いているのかも……。

 「この世界の人には見えないようです。あなた達が見えている事に私の方が驚きです」

 その言葉に二人は顔を見合わせる。マリアさんは不思議そうにその二人を見つめていた。私も意味がわからなくて、この光景をただ茫然と眺めるだけだった――。