さぁっと吹いた風に優しく木の葉が揺れる。そして、その風に乗って呼ぶ声が少女に届いた。
「ルナ! 早く! 始めるよ!」
「うん!」
少女はそれに元気よく答え、声の元へ駆け寄った。そこには、少女に手を差し出す少年が二人。
少年の一人は、どちらかというとワンパクっ子で元気がよく、もう一人はクリッとした瞳で少女を見て優しく微笑んでいる。
少女は、その少年達と手をつないだ。
「用意はできたかな?」
三人はその声の主に振り向く。少女の前で先ほどの二人の少年と手を繋ぐ老人だ。
四人は、手をつなぎ輪になっていた。
「では、これより儀式を行う。よろしいかな?」
「はい!」
ニッコリ微笑みながら語りかけた老人に、三人は声を揃えて答えニッコリと返す。
「目をつぶり、深く息吸って吐き出そう」
老人は返事を聞き頷くと、そう言って自分も目をつぶる。
三人も素直に目をつぶり、息を思いっきり吸い込み吐き出す。
「自分が魔法使いになれると強く想う事。そうすればお前達も魔法使いだよ」
優しく言う老人に頷きながら、三人はぎゅっと更に目を閉じ願う。
――魔法使いになりたい!
今まさに、魔法使いとなる儀式が行われている?
「目を開けてごらん」
老人の声に、三人は目を開ける。
「わぁ! 光ってる!」
「きれいだね」
「やった!」
三人は自分の光る足元を見て喜んだ。それは、四人を囲むように丸く輝いていた。そして、三人の笑顔を照らしている。
「おじいちゃん、ありがとう!」
「お前達の強い想いがあったからだよ。今から三人は新米魔法使いだ!」
礼を言われた老人は、またニッコリと答えた。
「ルナ! 僕は絶対に立派な魔法使いになって君のナイトになるよ!」
「オレも! 立派な魔法使いになる!」
「うん! ハル君、カナ君、一緒に頑張ろうね!」
嬉しそうに話す三人に、またさぁっと風が吹いた――。
ジジジィ……。
バシ!
うるさく鳴る時計のベルを右手を伸ばし止め、お約束で上半身を起こし両腕を天井に伸ばして伸びをする。
私は天恵《あまえ》月海《つぐみ》。今日から和泉《いずみ》学園奉仕科の一年です。
和泉学園とは、数年前に新しく開校した敷地に広大な林がある広い学校で、普通科と奉仕科がある私立高校。
う~ん。小学校の頃の夢見ちゃったよ。魔法使いか……。
夢の事を考えながらぼけ~っと、壁に掛けてある真新しい制服をぼんやり眺めていた。
「おっと。入学式早々遅刻はやばい」
私は、起きると朝食を取り身支度を始める。
奉仕科に配布されている紺に薄いオレンジ色のチェックのキャロットスカート、ブラウスに赤と白のストライプのネクタイ、スカートと同じ柄のベスト。そして、その上に紺のブレザーを着る。
普通科はスカートらしい……。まあこれもスカートにみえるけどね。
黒のハイソックスを履きながらそんな事を考える。
最後に肩までの長さの髪をとかし、右耳の上当たりをピンで留める。
鏡を見て、うんと頷くとコートを着て鞄を手に取ると背中に背負った。
私は元気に家を出発する。但し、寒さに身を縮こませて。ここは北海道で春はまだ遠い。
☆ ☆ ☆
入学式を終え、私は教室にいた。担任は小野寺といい、三十代前半の男の先生。
「入学式お疲れ様。これから奉仕科について説明をする。ちゃんと聞いておくように」
三十人の生徒がひしめく教室全体に聞こえるように大きな声で話すが、ほとんどの生徒は浮足だっているのか先生の話など聞いていない。
私もその一人であるけどね。
小野寺先生は、気にせずそのまま話をつづける。
「奉仕科は、午前が普通の授業で午後からは奉仕科の特別授業となる。午後からは、それぞれの部室に移り二、三年生と一緒に活動を行う事になる。
そこにも書いてある通り、部活に所属してそれがそのままグループ分けとなる。つまり午後からは縦割り授業となる。部活と言っても奉仕活動、つまりは授業の一環としてボランティア活動をする」
小野寺先生の言葉に皆、案内書に目を落とす。
「入部するにあたり注意点がある。入部する際には二名以上で行う事。先ほど配布した入部届けに一緒に入部する者を記入する欄がある。入部までの期限は一週間。勿論今日、入部しても構わない。二、三年は休みだが部活動は出来るのでいると思う」
二名以上って知らないやつらばかりなのに……。そんな呟きがあちこちで聞こえてくる。
奉仕科は、同じ中学校から一名しかとらない。クラスの中に知った人物はいない。少なくとも私は……。
「はい! 質問です」
生徒の一人が手を上げた。
「なんだ?」
「もし、一週間で決まらなかったらどうなるんですか?」
「今までそんな者はいなかったが、こちらで振り分ける事になる。いない理由がわかるか? 成績に響くからだ。同じ部活動に入る仲間を探すのも授業の一つだ」
今度はあちこちから『え~』という声が聞こえる。
私も声こそ出さないが、不安になり教室を見渡す。
一週間で仲良くなる自信ないんですけど……。
「今日は金曜で明日と明後日は休みだ。帰りに掲示板でも見て休み中にどこに入るか考えておくように。月曜から午後の授業がある。説明会を行っているが、部によっては早くに締め切る所もあるからな」
小野寺先生は、更に不安を煽るような事を言った。
「さて、説明はこれで終了だ。詳しくは部活動の先輩に聞くように。いい先輩に当たる事を祈ってるよ」
そう言うと、ではっと颯爽と先生は教室を出て言った。残った私達はあっけに取られ、出て行ったドアを見つめていた。HRは終了したみたい。
さて、帰りますか。
私は、立ち上がり教室を出た。
廊下には生徒の姿はまばらだった。普通科は一階、奉仕科は二階に教室があり、一年の教室は一番奥。各学年は一クラスずつしかない。
もしかして、教室に向かう間にあった部屋って部室だったのかな? 建物の中って事は文化部? 階段を上がった所に掲示板があったっけ。帰りに見て帰るかな……。って、変わった作りの学校よね。
「ルナ!」
ぼうっと考え事をしながら歩いていた私に聞き覚えがある単語が耳に届いた。
ルナって聞こえたような……。私の小学生の時のあだ名。と言っても数人しかそう呼んでいなかったけど。
振り返ると目にかかるほど長い前髪に、黒縁の眼鏡をかけた男子生徒がニッコリ微笑んで立っていた。
ルナって私に言ったのかな? と言うか誰だっけ? この人。
「えっと…」
私が困惑顔で口ごもっていると、男子生徒は悲しげな顔になりそれに劣らず悲しげな声で話しかけてきた。
「僕だよ。は・る・と! 佐藤陽翔」
「佐藤君?」
「もしかして覚えてないの? 本名なのに…」
普通、学校には本名で通うものだと思うけど。不思議な事を言う彼を私はジッと見つめた。
どこかで見た事あるような。ないような……。
更に眼鏡の奥の瞳をジッと見つめる。パッチリと見開かれて黒い瞳がはっきりと見える。――今朝夢で見た男の子の顔が思い浮かぶ。
「あ! ハル君! え、うそ!」
思い出し声を上げる私に嬉しそうにコクリと頷く。
「よかった。思い出したんだね! まさかこの学校で会うなんて!」
「私もビックリだよ」
「あのさ、もう部活決めた?」
「え? いや、まだだけど……」
「じゃさ、ちょっと見て行こうよ」
「いいよ。掲示板見て帰ろうと思っていたところなんだ」
ハル君の申し出に、掲示板を見て帰るつもりだった私は二つ返事で返す。
いやぁ、こういう偶然もあるんだ。って、よく私だってわかったなぁ。
「じゃ、行こう」
ハル君は、何故か手を差し出した。
「………」
いやいや、手は繋がないから……。
「あ、ごめん。もう、小学生じゃないもんね」
照れながら、手を引っ込める。
うん。小学生じゃないからね。しかも低学年の時の話でしょう。
私達は階段の前にある掲示板に向かった。
掲示板には部活名が書いてあり、案内図のようになっていた。
部活名しか書いてないんだけど……。えっと、合唱部に読書部って地味のしかないの?
運動部に至っては、卓球部しか名前がない。随分偏った部活動ね。その中に不思議な部活名を見つけた。
「……ファンタジー部?」
「あ、やっぱり興味ある?」
「え? いや、珍しい名前の部だなと思って……」
「そうかな? ところでよかったらさ、一緒に同じ部に入らない?」
ハル君は、そう聞いてきた。
誰かと一緒に入らないといけないし、知っている人との方がいいかと頷いた。
「うん。いいよ」
「よかった。じゃさ……」
「ハル! もう来ていたのか。って女?」
ハル君の言葉を遮るように声を掛けられ、私達が後ろを振り向くと、そこには二年生の先輩が二人立っていた。学年はネクタイの色でわかる。一年は赤、二年は青、三年は緑とそれぞれ白とストライプ模様となっている。
女の先輩はお嬢様な感じのできりっとしていて、胸まであるストレートの髪がよく似合っている。
男の先輩の方は、これがまたブレザーが全く似合わない髪型をしていた。いや違うか……髪がないから髪型とは言わないよね。つるっつるだよ。
どういう組み合わせなの? お嬢様と坊主って……。
「あ、カナ……」
ハル君の知り合いっぽい。まあ、ハルって声を掛けていたものね。
「まあ、いっか。行こうぜ。こっち」
ぼけっとしていると、カナと呼ばれた男の先輩の誘導で部室の方へ移動する。来た方向に戻り、右手に曲がれば教室の方向の所で立ち止まる。
左側にはドアがあり、女の先輩がカギを開けドアを開く。
「どうぞ。おはいりになって」
その言葉に、私達は部室に入っていく。って、もしかしてこの部に入るわけじゃないよね?
私は不安になった。だって入る時にちらっと見ちゃったの。ファンタジー部と書いてあるのを……。
「何、この椅子とテーブルの組み合わせ……」
ハル君の入ってすぐの第一声です。
目の前には、公園などにあるような木のテーブルの両側に二個ずつパイプ椅子が並べてあった。
確かに不思議な組み合わせかも。
「いいから、座れよ。で、その子が一緒に入るヤツ? 女にしたのかよ。大丈夫か?」
促され私達は並んで座る。私の前に男の先輩がその横に女の先輩が座った。
ここに入る事になっていたみたいね。でもあまり歓迎されてないような……。
「うん。大丈夫。すごいんだよ!」
突然ハル君が、興奮して叫んだ。
「何がすごいんだよ」
「ルナ! ルナなんだよ!」
「え? まじ!」
今度は男の先輩の方が興奮している。ルナって私の事よね?
「かなた! 和泉星空。ほら、ハルの真似してカナ君って呼んでいただろう」
と、説明されて、小学校の頃三人で遊んだもう一人だと気づき驚いた。
あの夢って予知夢かなんか?
「え~! 覚えてるよ。一つ上だったんだ」
私も興奮して叫んじゃった。
「思い出した? 夏休みと冬休みぐらいしか行ってなかったから。お前が女の子連れてきて驚いたけど納得だ」
前半は私に後半はハル君に話しかけた言葉。カナ君の顔は、驚きと嬉しさであふれていた。
「ルナならいいよね。秘密だって守れるよ! ね!」
カナ君に言った後、私に振り向き同意を求めて来た。ねっと言われても……。
「えっと……。状況がわからないんだけど」
私は素直にそう言った。
「お前、何も話してないのか?」
「一緒に入部する事にはなってるけど、話す前にここに。でも大丈夫だよね!」
また同意を求められた。
「えっと。それは内容によると言うか。ハル君がこの部に入るって事も今知ったぐらいだし……」
「もう少し落ち着いたらいかが? 陽翔」
それまで成り行きを見守っていた女の先輩が口を挟んできたと思ったら自己紹介を始めた。
「申し遅れました。わたくし三崎聖《まりあ》と申します。聖書の聖でマリアですわ。わたくしの事はマリアお姉様とお呼びになって」
え……お姉様?
驚いて私は、ハル君を見ると、言わんとしてる事を察して答えてくれる。
「僕は、マリアさんって呼んでいるよ」
「私もマリアさんで! ……いいでしょうか」
「あらそう? それでもよろしいわ」
とても残念そうにマリアさんは答えた。
とりあえず私も自己紹介をしようかな。
「えっと、私は天恵月海といいます。月と海でツグミです。宜しくお願いします」
軽く会釈をすると、マリアさんはにっこりほほ笑んで宜しくと返した。それから、クルッとカナ君に顔を向けると抗議を始める。
「ところで星空。彼女をルナとお呼びするのはわかりますが、お姫様は違いません? ルナは、女神でしょう?」
え! 姫! そんな事も話してあるの!
二人がナイトで私がお姫様。そういうごっこ遊びをしていた記憶がある。
「小学校の時に考えたんだから仕方ないだろう!」
顔を赤く染めカナ君が反論する。
「わたくしルナという名前の方だと思っておりましたわ。ルナが魔法使いのお姫様で二人がナイトで、立派な魔法使いになって守るんだって言っておりましたから。……でも、見た目はわたくしと変わらないのですね」
頬に手のひらを当て、何故かため息交じりに呟く。
最後の一言がよくわからないけど。
「小学生の時の話で、もう子供じゃないので魔法使いだなんて……」
「そうでしたわね。公になんてしておられませんよね」
「………」
マリアさんってもしかして、私を魔法使いだと思っている? とかないよね?
「もしかして、秘密って魔法使いって事じゃないですよね?」
「そうね。でもそれは、あなたの秘密でもありますから。その問題は大丈夫ですわね」
その言葉に二人は頷くが、私は驚いた!
だって平然として言ったよ! 私の秘密でもって事は、マリアさんって私たちが魔法使いだって思っているって事?! これってどっきり? それとも二人が冗談で言った事を本気にしたとか? 普通はあり得ないけど……。
とりあえずこれはスルーしよう! どっきりだとリアクション薄ってなるけど。
「そうだ。あの、この部って何をする部ですか? 先生に一週間で決めなさいって言われていて……」
「うーん。そうだな。その前に部とはどういうものか話を聞いているか?」
私の問いにカナ君が答えるも質問に質問を返された。
「確か、奉仕活動を行う……仲間であり大半を一緒に過ごし色んな事を学ぶ仲間である」
私は案内書を見て答えた。これってクラスメイトより重要な相手なのでは?
「やっぱり何も聞かされてないんだな。俺たちが一年の時と一緒だ」
「部とはどういう役割か知っていただいてから、お話を進めてはいかが?」
カナ君が呟くとマリアさんがそう提案した。
私もその方がいいので頷いた。ハル君も知らなかったみたいで頷いていた。
「この学校の奉仕科独特の特徴で、他校にないシステムなんだ。部を会社に見立て奉仕活動を行い運営をする。という奉仕科の縦割り授業だ」
カナ君が語り始める。
「そういう事だから部活内容よりも人間関係が重要かな? 聞いた話によると、一年は奉仕活動を押し付けられ大変らしい」
「心配いりませんわ。わたくしたちはそんな事をするつもりはありません」
マリアさんは、つかさずフォローを入れる。
「俺たちは昨年この部を立ち上げたから、そんな目に合ってないけどな。それと一年だけに、つまり二人に押し付ける気はないよ」
「部って作れるんだ」
頷きながら私が呟くとカナ君が更に説明をしてくれる。
「条件さえクリアすればな。二人以上で作り毎年一年を入部させる事。まあ、作る時にあたっては二人そろっていればOKだったけど」
「そんな簡単な条件なんだ……」
「簡単ではありませんわよ。設立の条件は難しくはありませんが、部は会社なのですよ。持続していかなくてはなりませんわ」
「そ、それもそうですね……」
マリアさんに反論された。って、結構面倒な仕組みなのね。
「ではもう少し踏み込んでお話し致しますわね。部での奉仕活動が成績の評価の一つになりますわ」
「じゃ、極端に奉仕活動が少ないとやばいとか?」
マリアさんの言葉にハル君が反応して言った。
「評価は個人じゃなくて部ごとなんだ。だから全部一年がしても皆で分担しても評価は変わらない。それでさっきの一年が大変だって話につながる訳」
私達はなるほどと頷く。面倒な事は一年に押し付けられそうだね、それ。
「評価は、ポイント制。つまりは、点数ですわ」
「じゃ人数少ないと不利じゃないか?」
「私もそう思います。人数が多い方が有利だと思うんだけど……」
私達が意見すると、二人はノーと首を振る。
「そこは学校も心得ておりますわ。ノルマがありますのよ。月に部員人数分の奉仕活動を行う事。それと、一回の募集数は二人から四人ですの」
「それでも人数が多い方が有利だと思うんだけど……」
「あら、そうかしら? 一学年に一クラス。一クラス三十人。全員では何人かしら?」
「九十人? ……あ!」
答えてから私は気づいた。一月に九十件以上の奉仕活動がないとダメだという事に。
「気づいたようですわね。奉仕は街の方々からの依頼がほとんどで、校内の奉仕も取り入れて、学校側も九十件以上になるようにしているようですわ」
「このシステムが知られるようになって、地方からの依頼も来るようになったみたいだぜ」
私達は、二人の話に頷く。
九十件に満たなかった場合は、ノルマが達成できない部が出るという事になる。
「仕組みはわかったけど、別に部にする必要あるのかな?」
「そのまま授業にすると夏休みとかに出来ないし、部活動なら休みの日も活動出来るって訳」
「なるほど!」
私の質問にカナ君がわかりやすく答えてくれるもマリアさんが嫌な一言を付け加える。
「そのお蔭で夏休みも冬休みも、あってもないようなものですけどね」
「あ、赤点なんて取るなよ! 部活動も授業の一環なんだから理由にならないし、追試に合格するまで部の連帯責任で奉仕活動が出来なくなるからな」
更にカナ君が付け加え、私達はげんなりする。
「大丈夫ですわ。そうならない為に先輩が後輩の勉強の面倒を見る事になっておりましてよ。何せ時間はたっぷりありますからね」
「なんだよそれ。午後からは自由だ! って、思ったのに……」
「ほんとだよな。奉仕活動がなくても六時間目の授業終了時間まで部室にいなきゃいけないし……」
ハル君が愚痴るとカナ君は同意する。そして、チラッと私を見ながらこう続けた。
「人間関係が悪かったら最悪だろうなぁ……」
部の説明をしながら、説得しようとしている?
「考え方よっては、気が合う仲間だけの少人数の方が楽じゃありません?」
マリアさんの言葉に、二人は頷き私を伺う様に見ている。
あぁ、これ、うんと言わせようとしているよね? カナ君とマリアさんの言う通りだしここでもいいかな。
「……わかりました。ハル君と一緒にこの部に入ります」
「やったー!」
「よしきた!」
観念した私の言葉に、二人は手を上げて喜んだ。
「まだ安心はできなくてよ。ここからが肝心ですわ。秘密が守れるかどうか……」
マリアさんの言葉に、二人は真面目な顔になる。
そう言えばそうだった。一体なんだろう? 魔法使い……だと思い込んでいる以外にどんな秘密があるのだろう。
三人の秘密ってなんだろう?
「信じてもらえるかどうか分からないけど……」
ハル君がそう切り出し話し始める。とても信じられない話を――。
ハル君がやや緊張気味に声を出した。
「あのね、ルナ。僕、シマールなんだ」
「……シマールって?」
「勿論ウィザードのシマールだよ」
皆さんがご存知の通りウィザードと言うのは魔法使いの事ですが、ハル君が言っているのは多分、昨年デビューした二人組のユニットアイドル、シマールとスターリーの事だと思う。
シマールは短い金髪でブルーの瞳。膝まであるマントもロングブーツまでも全身真っ白の衣装。
逆にスターリーは、肩より少し長いストレートの髪と瞳は漆黒。衣装も全身漆黒。
性格はシマールが俺様できつい印象に対し、スターリーは無口でミステリアスなイメージ。
そんな対照的なユニットアイドルなんですが! あり得なさすぎる!
「で、俺がスターリーな」
あんぐりとしていると、カナ君もぼぞっと言った。
成り行きから当然、もう一人にとなるかもだけど……。
あ、あれか。やっぱりドッキリなのね!
本当はカナ君も最初から私だと知っていて、ドッキリを仕掛けたのね!
魔法使いもあり得ないけど、これもあり得ないでしょう!
って、これはどういう反応をすればいいわけ? 普通信じないと思うけど……。
「僕達本当にウィザードなんだ。勿論、本物の魔法使いだと言う事は伏せてあるけどね」
反応に困っていると、マジ……いや、どや顔でハル君は言った。
ま、まさかと思うけど……自分達の事魔法使いだと思っている?
この人達やばい系? って、それでウィザードだと思い込むってどうよ。
うーん。あぁ、わからない。わからないけど、ドッキリ決定だね!
もう少し信じられるようなどっきり仕掛けようね!
「うんうん。わかったから、もう種明かし宜しくね」
「種明かしって……。わかった! こうしたらわかる?」
そう言うと、ハル君は立ち上がり眼鏡を外したと思うと手を自分の頭にやり、その手を振り下ろす。驚く事に一瞬にして髪が金髪に変わる。よく見れば、黒髪のウィッグが手に握られていた。
目線をハル君の顔に戻せば、目こそ黒いがシマールそのものだった!
「え? う……そ……シマール……」
驚きすぎて思考がついていかない。
「ちょっと借りるぜ」
ハル君のウィッグを奪い取ると、カナ君はそれを自分のつるっつるの頭にポンッと乗せた。
ハル君同様立って私を見下ろす姿は、髪は短いがスターリーに見える。
え? ドッキリじゃなくて本当の事? あ、いや、これがどっきり?
「この二人がウィザードなんて信じられないかもしれませんが、残念ながら現実ですわ」
成り行きを見守っていたマリアさんが、まるで慰める様に言った。
「残念ながらってなんだよ! 幼馴染がウィザードだぞ! 喜ぶところだろうが!」
「全然自慢になりませんわ」
私が混乱しているさなか、二人は言い合いを始めた。