夜行遠足のあらましを思い出した私は、近くの机に寄りかかり、窓の外に目をやった。

 放課後、早く部活へ行きたい晄汰郎をどうにか理由をつけて空き教室に誘い込んだまではよかった。けれど結果がこれじゃあ、これまでの労力が全部水の泡だ。

「あーあ。イケると思ったんだけどなあ」

 だって、しょっちゅう目が合うし。

 別棟の空き教室まで響いてくる野球部のかけ声を窓越しに聞きながら、薄水色の晴れた秋空と、そこで泳ぐ雲をぼんやり眺める。

 あの声の中に晄汰郎の声も混じっていると思うと、このまま聞いていたいような、やっぱりムカつくから耳を塞いでやりたくなるような、そんなどっちつかずの気持ちになる。

 好きではなかったはずだった。確かに理想の男子だったけれど、晄汰郎に思い入れのある周りの女子のように、そこまで本気で彼のことが好きというわけでは。

 ただ、しょっちゅう目が合うから、これならイケると。そう判断して彼氏にしたいと思った。晄汰郎が彼氏なら、ものすごく鼻が高いから。

 ――でも。

「そんなん通用するはずもない、ってか」

 フン、と鼻白んだ息を吐き出し、肩を竦める。

 それでも相変わらず威勢よく響いてくる野球部だとすぐにわかる声がやけに耳について、なかなか離れてくれない。