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 私が通う蓮丘高校には、『夜行遠足』という行事がある。

〝夜行〟の名は、男子が歩く距離――105キロを夜通し歩くことから由来していて、女子はその翌日の早朝から一日をかけて43キロの道のりを歩く。

 ゴールはそれぞれ、碁石と南和。

 道中では卒業生や近隣住民からの差し入れがほどこされ、保護者やボランティアが夜行遠足の安全を陰からサポートする。また、有志による豚汁などの炊き出しや休憩所も各所に設けられ、疲れた心と体を癒してくれる。

 そして、この夜行遠足は、蓮高生にとってバレンタインより重要な行事でもある。

 好きな男子にチョコを渡すのと同じ要領で、本命の男子生徒に赤のギンガムチェックのお守りを渡すのが、昔からの習わしだ。

 誰がはじめたものなのか、いつからそうなのかはわからない。でも、夜行遠足には意中の相手に赤のギンガムチェックのお守りを渡すのが蓮高女子の伝統だ。しかも手作りだから、どれだけ本気かが嫌でも伝わる。

 それともうひとつ。

 お守りといえばりんご、というのも、よく知られている伝統だ。

 男子の中で完歩できた生徒だけがもらえるそのりんごは、過酷な道のりに反して、たったのひとつ。

 それを見事ゲットし、後日お守りをくれた女子にお礼として渡すのが、蓮高男子のホワイトデーのお返し、ということになる。そして女子は、そのりんごのお礼にアップルパイを焼き、一緒に食べるのだ。