いまだ顔を上げられない中、途端に晄汰郎が纏う空気がピリリと張り詰めていく。だから私は、余計に俯くしかなかった。

「もういい。行くわ」
「……っ」

 ややして、痺れを切らしたのだろう。晄太郎はその場を離れていった。俯いた視線の先――晄汰郎の足が視界から消えていく様子を見つめながら、私はきつく唇を噛みしめる。

 正確には、渡す気になれなくなったんじゃなく、渡せなくなっただけだ。

 晄汰郎に計算は効かない。でも私は計算しかできない。

 だから、なんの計算もなく真っ直ぐに想いをぶつけるには、本命お守りは重すぎると今さらになって気づいたのだ。それにもう、この鎧の脱ぎ方もわからない。

 あの子たちも〝付き合っちゃえよ〟なんてよく簡単に言えたものだよ。こっちはそれ以前に、告白すらしてないのにフラれるわ、嫌われるわなんだから、最初から挽回のチャンスなんてあるわけもないじゃんか……。

「……どうせ私のことなんて好きじゃないじゃん。むしろ一番嫌いなタイプじゃん。だったら無理して〝くれ〟なんて言わなくていいのに。わかんねーのはそっちだっつーの」

 ザッ、ザッと音を立てて遠ざかっていく晄汰郎の足音を聞きながら、ますます首を引っ込めて俯いた私は、ぼそぼそと毒を吐く。