心の準備ができていれば、もしかしたら席を立つなり目を逸らすなりして避けられたことだったかもしれない。

 でも、まさかクラスメイトの前で晄汰郎がアクションを起こすとは思っていなかったし、何より私は今まさにその本人のことを考えていたから、咄嗟にはどうすることもできなかった。

 友達にしつこく報告をせがまれ、じゃあ昼休みに詳しくと、とりあえず時間を稼ぐことにしたのは登校後すぐのこと。

 それまでに金曜日に起こったことをいい感じに捻じ曲げなければならない。事実をありのままに話すには、どうにもショックが多すぎる。

「で、なんだったの、あれは」

 再度尋ねられて、今度は目が泳いだ。おまけに椅子からお尻が浮きかける。

 けれど晄汰郎が、まるで〝逃がすか〟とでも言いたげに机に両手を付いて身を乗り出してくるから、完全に逃げ道を塞がれてしまった。

 ちらりと彼を見ると、その強引とも取れる動作とは裏腹に、どこか切羽詰まっているような気もするから、わけがわからなくなる。