「っ……」

 それを思うと、またチリリと胸が苦しくなった。だから余計に、振り返れなかった。

 はあはあと息を切らしながら、グラウンドの脇から伸びる駅へと続く坂道を一気に駆け下りる。だらだらと下校していく蓮高生を何人か追い抜きながら、ただただ、燃えるように火照る頬の熱を冷ますために。


 計算しない女子なんていない。

 それが私の持論だ。

 でも、この突発的な行動はなんとなく想像がついてしまったし、大方の察しもついてしまった。……ただ。

「今さらって、そんなのありなの⁉」

 数分後、駅まで走りきった私は、息つく間もなく、そう叫ばずにはいられなかった。

 まったく意識していなかった相手。しょっちゅう目が合うから、絶対に私のことが好きだと高を括っていた相手。

 だから、彼女になりたいではなく、彼氏にしたいと思っていた相手を――晄汰郎を、まさか今さら、自分のほうが意識するようになるなんて。

「嘘でしょ。え、ちょっと待って。じゃあ本当にフラれてんじゃん。……ああもうっ」

 突如として芽生えてしまったリアルな恋心を盛大に持て余しながら考える。
 本当にどうしたらいいんだ私は、なぜ今なんだと、くるくる、くるくる、と。

 そのとき、スカートのポケットにねじ込んだままのお守りがカサリと鳴った。中から取り出したハニーレモン味の飴を悔し紛れに口に放ると、全然ハニーじゃなくて、余計悔しかった。