(春日山城・天守閣跡)



 私が生まれたのは、雪深い真冬の未明のことだった。


 その日も相変わらず、雪は静かに降り続いていた。


 冬の夜明けは遠く、辺りはまだ真っ暗だった。


 当然自分がこの世に生まれ出でた時の記憶などないのだけど、その場に居合わせた侍女の話によると。


 私はおぎゃあと一声大きく泣いて、その後ぴたっと泣き止んだという。


 体格も普通の赤子よりは立派で、健康そうだったとのこと。


 「元気な、姫君にございます!」


 侍女が床に伏す母に告げた。


 「姫ですか……」


 まだ苦痛から立ち直れない母が、顔だけを上げて私を見た。


 その瞳には明らかに失望の色が浮かんでいた。


 何としても男子を産みたかった母。


 妊娠中も腹の中で活発に動いている胎児を、勝手に男子だと思い込んでいたようで。


 しかし生まれてきたのは、残念ながら女であった私。


 「男の子だったらよかったのに……」


 私は終生、その言葉を投げかけられる運命にあった。