思わず立ち上がった私を、
フジミんがニヤリと見上げた。

お願い、嘘だと言って。
私のことじゃないけど、いろいろ困る。

「半分は本当だよ? 
金持ってないって言うから、着替えを買ってあげてさ。
ファミレスで飯食って、カラオケボックスで夜明かしした」

金髪さおりめ! 
いったいどこまで人に甘えれば気がすむんだ。

っていうかフジミんもそこまでするかな、普通。
まさか……。

「あのさ、ただカラオケで夜明かしした……だけだよね?」

「マジで覚えてないの?」

フジミんが疑わしげに私を覗き込む。

「覚えてないっていうより、別人だから」

「同姓同名で同じ顔っておかしくね?」

「おかしいよね。でも、そうなの。
幽霊みたいなもんなの。私も困ってるの」

「だから、多重人格なのかなって」

「違うってば。短めの金髪が急に
黒髪セミロングにならないでしょ。
言っとくけど、この髪はウィッグじゃないから。
ピアスの穴もないし」

そう言って、フジミんの顔の前に耳たぶを突き出し、
ついでに髪を引っ張ってみせる。

「本当だ。ねえ、どういう仕掛け?」

まだ言うか。

「だから、同姓同名の他人の空似だってば。
さっきの話だけど、何もないよね?」

フジミんが唇に人差し指を当てて笑う。

「内緒だよー」

「もういい。とりあえず洋服代と食事代、払うから。いくら?」

「さおりんじゃないなら、何で払うわけ?」

「私じゃないよ。私じゃないけど、
弱みを握られてるみたいでイヤなの」

「そんなつもりじゃないよ、俺」

あ、マズい。フジミんが初めて見せる、ムッとした顔。
流石に私も冷静になる。

「ごめん。面倒見てくれたのに」

「俺はさ、楽しかったんだよ。
さおりんもそうだと思ってたし」

でもそれ、私じゃないし。
そう思いつつも、ちょっと責任を感じてしまう。

仕方がない。
フジミんにはもう会うこともないだろうし、
いっそのこと、「変なやつ」って思われた方が
都合がいいかもしれない。

「あのね、実は…」