そしてまた世界は枝分かれする

あっちの世界から戻った時はいつも、
ぼんやりしてしまう。
まるで心に開いた小さな穴から空気が漏れているような、そんな感じ。

しぼんだ風船みたいにしょぼくれた気分でバスに乗る。
桜木町の駅前に着くなり、スマホが鳴った。
真澄からだ。

「さおり、今どこ?」

「どこって、桜木町のバスターミナルだよ」

「じゃ、そこにいて。すぐに行くから」

そう言うと、一方的に電話が切れた。
言われるまま待っていると、5分しないうちに真澄と美園が現れた。

「もう! 昨日から何度も連絡したのに! 
学校もサボって私服で何してんの!」

美園はすでに怒っている。
真澄はいつもの笑顔で私の手を取った。

「行こ。急がないと、今日が終わっちゃう」

「今日? 何の日だっけ」

「やだ、本気? 誕生日でしょ、さおりの」

そっか、すっかり忘れてた。
向こうに行っている間にこっちではゴールデンウィークも終わって、
5月6日になっていたんだ。

「お誕生日おめでとう、さおり」

「ちょっと真澄、ずるいよ! 
一緒に言おうって約束したじゃん!」

「だって、さおりが忘れてるから、つい」

困り顔の真澄とプク顔の美園。
私がいなくなっても誰も気づかないだろうし、
あのまま戻らなくてもよかったかもって、
そう思っていたのに。
そんなふうに投げやりに思っていた自分が、ちょっと恥ずかしい。

「こんな誕生日、初めてかも」

柄にもないことを言った私を、
二人がちょっと驚いた顔で見て、そして笑った。

「今日はさおりの好きなラテ、おごるよ。
チョコソースとエスプレッソショット追加をベンティサイズで!」

「うん、そこはトールサイズでいいや」

「なんでもいいから、早く行こ!」

18歳になった私は、
二人に手を引かれていつもの店に向かった。