「今年のクリスマスは彼氏とすごす!」
という目標を見事に達成した美園はすごい。
そして、彼氏がいてもいなくても
クリスマスに浮かれる美園と真澄を見ていると、
自分の女子高生力のなさを実感する。
女子高生力なんて言葉があるのか知らないけど。
私がクリスマスより誕生日より楽しみにしているのはお正月だ。
やっぱり女子高生らしさが足りない。というか、全然ない。
去年見つけた、私の元旦の楽しみ。
それは、元旦バンジージャンプだ。
年末年始も忙しそうな父は、元旦も家にいるのか仕事なのか、はっきりしない。
いつ帰ってくるかもわからない父を待つべきか、
先に食べてしまおうかとモヤモヤするくらいなら、
好きなことをしていた方がいい。
だから私は、学校も塾も休みになり、みんなが家族と過ごす元旦に、
一人で新幹線に乗り、群馬を目指すのだ。
「ケチなさおりが新幹線で往復するなんて」
と美園にからかわれたけど、
私はコスパに厳しいだけで、ケチではない。
重要なのは、値段にふさわしい満足感があるかどうかだ。
新幹線を降りると、駅前にワンボックスカーが迎えにきていた。
着いたのは、町の中心を流れる川の、一番大きな橋だ。
ヘルメットとハーネスをつけて、
橋の真ん中に備えられた踏切台へ向かう。
その時、先客の大きな叫び声が渓谷に響いた。
「あー、やっぱ無理ッス! 無理無理!」
「じゃあやめる? どうする?」
スタッフさんがなだめるように尋ねている。
「やめます! いや、でも…」
踏切台に立っても、なかなか思い切れないまま、結局諦める人は多い。
この人も、飛ぶまで時間がかかりそう。
長引いたら困るなと思ったら、案の定、
その人はその場にしゃがみ込んでしまった。
「やべえ、めまいがしてきた。耳鳴りも」
「じゃ、とりあえずいったん戻ろうか」
スタッフさんに諭され、踏切台を離れたその人の顔を見て、
私は一瞬で固まった。
いかにも体育会系っぽい短髪と日焼けした顔、そして、緑がかった茶色い瞳。
この人、知ってる。