「何それ!」

直規が弾かれたように飛び起きる。
私も起き上がって、
八月一日健太とのあまりにも短い再会の話をした。

「知らない弟か……母親は誰なんだ? 
その世界では親父さん、再婚してるってことかな」

「どうだろう。でも、一番ショックだったのは、
その世界で私が死んでるってことなんだよね」

「……そうか」


「私がいなくなっても、世界は普通に続くんだなって」

「死んでないのに、死んだ人の気持ちを
味わっちゃったんだな、さおりは」

言われてみれば、そうかもしれない。
普通ないよね、そんなこと。

「ってことは、俺が死んでる世界もあるってことか」

確かに、それはあり得る。

「そう考えると、なんだか虚しいな」

直規が天を仰いだ。
いつも暑苦しい直規にしては珍しいセリフ。

「だってさ、生きるか死ぬか、パターンがいくつかあって、
今俺たちがここにいるのは、単に
『生きてる』ってパターンに振り分けられただけじゃん」