もう一眠りして夕方に目を覚ますと、
インターフォンが鳴った。

「もう、心配したんだから! 
全然既読にならないし!」

制服姿の美園はスマホを突き出して頬を膨らませた。

「ずっと寝てたんだもん」

「だから言ったじゃん。寝てるんだよって。
これ、パン田くんから。お見舞いだって」

真澄は美園をなだめながら、
パン田くんちのパン屋さんの紙袋を差し出した。

やった。カフェオレとチョコのマフィンが入ってる。

「後でパン田くんに連絡してあげて。
すごく心配してたから」

「そうそう。パン田くんってさ、
さおりのこと好きなんじゃない?」

甘いものと同じくらい恋バナが好きな美園が
私の顔を覗き込む。ニヤけすぎだってば。

「ないない。パン田くんはみんなに優しいんだよ。
まったく、自分が幸せだからって」

「真澄には負けるけどね。最近フジミん、
あんまり会ってくれないんだもん」

幸せを隠せない真澄が美園を慰める。

「仕方ないよ、向こうは受験生なんだから」

へえ、意外。将来とか考えてるんだ。

「まあ、ああ見えて繊細だしね。
お父さんのこととかで、プレッシャー感じてるのかな」

「お父さんのこと?」

私がフジミんの話題に反応したのが嬉しいのか、
美園が得意げに教えてくれた。

「フジミんのお父さんって、
高校野球では有名な監督らしいよ。
弟はまだ中学生だけど、将来有望みたい。
フジミんも昔は野球少年だったらしいけど、
いろいろあって今はお父さんと
うまくいってないっぽいの」

らしいとかみたいとか、ずいぶん曖昧だけど、
本当ならずいぶん皮肉な話だと思う。

桜を見上げる直規の顔を思い出して、
私は小さくため息をついた。