美園を待っている間、お店の中を見ていたら、
棚に置かれたマグカップに目が留まった。

ずいぶん前から使っていた白いマグカップを割ってしまったのは昨日の朝。
ちょうどいいから、買おうかな。
そう思っていたら、真澄が近づいてきて、私の手元をのぞき込んだ。

「あ、かわいい。さおりが赤紫色を選ぶって、珍しいね」

確かに。いつもの私なら絶対に選ばない色だから、悩む。
「決断は十秒以内で」が私のルールなのに。

お店で見るからいいと思うだけ。
「やっぱり白にすればよかった」と後悔するに決まってる。
わかっているけど、やっぱり気になる。
色も気になるけど、軽いし持ちやすいし。

「消費税込みで1,620円なら、1年半使えば1日あたり2.9円か。
2年使えば1日あたり2.2円。ま、コスパ的には合格かな」

「出た! さおりのコスパチェック!」

こういう時、真澄はすごく嬉しそうな顔をする。
いつの間にか戻ってきていた美園は、
「欲しいなら欲しいって言えばいいのに」と呆れた顔で私を見上げた。

私は、驚いて美園の方を見た。驚いた私に、美園が目を見開く。

「え、そんなに驚くこと? 欲しいから買う、でよくない?」

美園の言葉に、真澄が「確かに」とうなずく。

え、それでいいの? 感情と行動は、別のものでしょ? 
少なくとも私の行動には、必ず理由があるし、それが一番正しいんじゃないの?

「ま、それがさおりだからね。ほら、いいから買っておいで」

小さい子に言い聞かせるように、真澄が私の背中を押した。