やっとの思いで家に帰ると、
夕飯も食べずにベッドに潜り込んだ。

一日のうちに二回も
違う世界に飛ばされたおかげで、
心も体もクタクタだ。

夜中には熱まで出てうなされた。
暗い海の中にいるような、
ひどい夢を見た気がするけれど、
よく覚えていない。

目を覚ますと、もうお昼前だった。
こんなに眠ったのはいつ以来だろう。

水を飲もうと一階に降りていくと、
リビングからフランス語が聞こえてきた。

ドアを開けると、
ソファにはだらしなく寝転がっている父。

ローテーブルにはいつもの
甘い炭酸のペットボトルと
ポテトチップス、それと大福。

「え? なんで?」

「休み。学校は?」

「ちょっと夜中に熱出しちゃって」

父はよいしょ、
と体を起こすと私を手招きした。
近づくと、父は「舌」と口を開けさせた。
私の舌を見て、ついでにおでこに触れる。

「大丈夫だろ。飯は?」

「お腹が空いたら適当に食べるよ」

そうか、と小さく呟くと、
父は再びソファに寝転んだ。
そして、テレビに目を向けたまま言った。

「好きにしろ」