「さおり、さおり! 大丈夫!?」

私を呼ぶ声に目を開けると、
美園と真澄の心配そうな顔が目の前にあった。

戻って来たんだ、私。

養護教諭の女の先生が二人の後ろから顔を出し、
「貧血を起こしたのかな」と私の顔を覗き込む。
その後ろには心配そうなパン田くんの顔。

「びっくりしたよ。通りかかったら、
はっさくが倒れてるんだもん」

どうやら、パン田くんが助けを呼んでくれたらしい。

「ごめんね」

パン田くんが「ううん」と首を振る。

そのまま保健室に連れて行かれて
ベッドで休んでいると、
みんなは誰が私を家に送るか相談し始めた。

「パン田くん、予備校に遅れるよ。
美園も真澄も、部活でしょ。
私は大丈夫だから」

「でも……」

心配する三人を説得して返すと、
今度は先生が私の父に連絡しようと電話を取った。

「大丈夫です、私は」

「そういうわけにいかないよ」

「大丈夫です。知り合いに途中まで
迎えに来てもらうので」

そう言ったら、やっと先生も納得して帰してくれた。

もちろん、そんな知り合いなんて、いないけど。

こんな時、金髪さおりだったらどうするだろう。
お母さんを呼ぶのかな。それとも、直規かな。

でも、私は違う。私は大丈夫。

口の中で繰り返して、
駅から家までの長い坂道を一歩ずつ上がる。

大丈夫。うん、大丈夫だ。
今までだって、こうして
一人で何とかしてきたんだから。