そしてまた世界は枝分かれする

ああ、戻ってきたんだ。こっちの世界に。

さっきと同じ場所にいるのに、
たった一人取り残されると寒々しく感じる。

時計を見ると、5時間目が始まっている時間だ。
仕方ない、教室に戻ろう。

教室の後ろの扉からそっと入ると、
古文の先生は教科書を置いて言った。

「八月一日、もう大丈夫なのか?」

「え? あ、はい」

軽く動揺する私に、
右斜め前の席の美園が指でOKマークを送ってきた。

美園たちがうまく言っておいてくれたらしい。
口パクで「ありがと」とお礼を言うと、笑顔が返ってきた。

授業が終わるなり、美園と真澄に問い詰められた。

「びっくりしたよ。振り返ったらいないんだもん。
どうしちゃったの?」

「ごめんごめん。
図書委員の件で呼び止められちゃって」

「それならいいけど。
最近、元気ないけど、大丈夫?」

真澄が心配そうに私の顔を覗き込む。

二人には、本当のことを話したい。
でも、こんな話、信じてもらえるわけないし。

「うん、大丈夫」

ありがと、と付け加えると、
真澄も美園もホッとした顔になった。
私の口が言い慣れた「大丈夫」という言葉。
これが出るうちは、大丈夫。

でも、さすがに今日は早く帰って休みたい。
そう思ったのに。

下駄箱で靴に履き替え、
中庭に差し掛かった時、めまいがした。

まさか、一日に二回も飛ぶの? 
直規がまだプールにいてくれればいいんだけど。

私はぎゅっと手を握り、その場で足を踏ん張った。