空っぽになったお弁当箱を
直規から受け取りながら、
私は空を見上げた。
「寒くなってきたね」
「ああ」と直規が腕時計を見る。
黒くてゴツい、ダイバーズウォッチ。
「次の授業の時間?」
「講義はもう終わり。
これからプール練なんだ。
さおりも一緒に来るだろ?」
私の返事を聞かずに歩き出す。
まあ、ついていくしかないわけだけど。
初めて入る大学のプール棟は、
ほんのり温かくて塩素の匂いがする。
「プール練って、佐藤直規は水泳部なの?」
「いや、ライフセービング部」
「ライフセービング?」
「そう。水難救助」
「ふうん」
「なんだよ。もうちょっと関心しめせよ。
ま、いいや。プール棟の2階にベンチがあるから、
俺が泳いでる間、そこで待ってな」
「うん」
「今日は素直だな」
佐藤直規が緑がかった茶色い目を細めて
私の頭をワシワシと撫でた。
「もう、やめてよ」
子犬を撫で回すみたいな
その手から逃れて髪を直す。
顔を上げると、そこにはもう、
佐藤直規の姿はなかった。
直規から受け取りながら、
私は空を見上げた。
「寒くなってきたね」
「ああ」と直規が腕時計を見る。
黒くてゴツい、ダイバーズウォッチ。
「次の授業の時間?」
「講義はもう終わり。
これからプール練なんだ。
さおりも一緒に来るだろ?」
私の返事を聞かずに歩き出す。
まあ、ついていくしかないわけだけど。
初めて入る大学のプール棟は、
ほんのり温かくて塩素の匂いがする。
「プール練って、佐藤直規は水泳部なの?」
「いや、ライフセービング部」
「ライフセービング?」
「そう。水難救助」
「ふうん」
「なんだよ。もうちょっと関心しめせよ。
ま、いいや。プール棟の2階にベンチがあるから、
俺が泳いでる間、そこで待ってな」
「うん」
「今日は素直だな」
佐藤直規が緑がかった茶色い目を細めて
私の頭をワシワシと撫でた。
「もう、やめてよ」
子犬を撫で回すみたいな
その手から逃れて髪を直す。
顔を上げると、そこにはもう、
佐藤直規の姿はなかった。