「そっちはどう? 何かあった?」

そうだ、忘れてた。

「うん。こっちの佐藤直規に会った」

「マジで!?」

箸を持ったまま固まった佐藤直規に、
順を追って話した。
友だちの彼氏だったこと、
電話番号を聞かれたこと、
そして、事故の話。

佐藤直規はチャラ男の話に
怒って落胆し、事故の話で考え込んだ。

「あと……ありがと。
この前、私に気を遣ってくれたんでしょ?」

「何が?」

「本当は、お父さんは自分をかばって
亡くなったかもって思ってるんでしょ? 
でも、それを言うと私にも
そう思わせるかもって考えて、
長男の責任なんて言ったんでしょ?」

驚いた顔が、すぐに苦笑いに変わる。

「ばれたか。だったら余計に辛かっただろ。
『命拾いしてよかったね』って言葉は。
その友だち、悪気はないんだよな。
さおりもわかっているだろうけど」

直規はいつになく優しい声で、
私の頭にそっと手を乗せた。
優しさの不意打ちに、鼻の奥がツンとする。

まずい、これは危ないやつだ。

歯をぐっと食いしばって、
両手もぎゅっと握って、
涙が落ちないようにこらえた。

たぶん私は、こっちの佐藤直規が
友だちの彼氏でチャラ男だった、
なんてことを話したかっただけじゃない。

この痛みを誰かにわかってほしかったんだ。

そして、それをわかってくれるのが誰か、わかってた。