「こんなところでどうした?」

「外で食べようと思って」

お弁当箱を見せると、
佐藤直規は「俺も」とコンビニ袋を
顔の横で振った。

こっちは秋なのか、
佐藤直規はデニムに青いネルシャツを羽織っている。

「うまそうだな。これと交換しない?」

膝の上でお弁当を広げると、
佐藤直規があんパンとカレーパンを突き出した。

「いいよ」

「いいの? やけに素直じゃん」

「タクシー代とカフェ代のお返し。
チョコレートは入ってないから、安心して」

いろいろ律儀だな、
と笑ってお弁当箱を受け取るなり、
佐藤直規は卵焼きにお箸を伸ばした。

「これ、俺が好きなやつだ」

「砂糖入れる派?」

「うん。この弁当、自分で作ったの?」

「他に誰も作ってくれないから」

「金髪さおりは料理なんてしないのにな」

「お母さんがやってくれるんでしょ。
やってくれる人がいたら、
私だってやらないよ」

佐藤直規は一瞬箸を止めてから、
「ま、いろいろあるよな」と曖昧に笑った。

いろいろって何? と聞く前に、佐藤直規がぼやく。

「それに比べて金髪はほんと、
手がかかってしょうがないよ。
約束はすっぽかすし、
勝手にバイトも辞めるし…」

なにそれ。保護者じゃないんだから、
放っておけばいいのに。
口からこぼれそうになった言葉を、
あんぱんと一緒に飲み込む。