あの中学生は、いったい誰なんだろう.

最近、スッキリしないことばっかりだ。

あーあ、私のモットーは「迷わない」と
「さっさと進む」なのに。

いろんなモヤモヤが雪のように
静かに積もってゆく。

「いい天気だし、チャペル前の
芝生で食べようよ」

4月も中旬のお昼休み、
美園が弾んだ声で言った。
最近機嫌がいいのは、あの彼氏と
うまくいっているかららしい。

「あんな男やめなよ」

友だちなら、そう言ってあげるべきかもしれない。
でも、理由を聞かれても答えられないから、
やっぱり黙っていよう。

そんなことを考えていたら、
出入り口でがくんと体が揺れて、転びそうになった。

危ない危ない。
お弁当をぶちまけるところだった。

ほっと顔を上げると、
前を歩いていたはずの美園と真澄がいない。

先に行っちゃったのかな?

そう思ってチャペルに向かったけれど、
二人はいなかった。
どこかですれ違っちゃったのかも。

引き返そうと振り返った時だった。

目の前に、佐藤直規がいた。

どっち? ここにいるってことは、
違う世界の佐藤直規……だよね。
髪も短いし。

じっと私を見つめる佐藤直規も、
同じことを考えていたのだろう。

「黒髪さおり…だよな? 
制服を着てるってことは」

よかった。
私が会いたかった方の、
じゃなかった、話がある方の佐藤直規だ。

「私たち、今どっちにいるの?」

佐藤直規がさあと首をひねった時、
通りかかった大学生がニヤリと笑って叫んだ。

「直規! 学内で女子高生を
ナンパしたらマズいだろ!」

「うるせえ! そんなんじゃねえよ!」

なるほど、私が飛ばされたんだ。