あの男のことですっかり忘れていたけど、
今日は美園の彼氏と会ったあと、
美園の買い物に付き合う約束なのだ。
なかなか決められない、彼氏へのクリスマスプレゼントを
一緒に探して欲しいらしい。

「やっぱり身につけるものがいいかな?」

メンズフロアを歩きながら、美園が声を弾ませる。

「マフラーは?」

「もう持ってる」

「手袋は?」

「フジミん、すぐなくしそう」

「じゃ、帽子」

「かぶってるところ、見たことないし」

どれも却下された真澄が、
「さおりは何がいいと思う?」と話を振ってきた。

「ラーメンの缶詰」

「は? 何それ」

美園と真澄の声が揃う。

「意外とおいしいよ。非常食にもなるし」

真澄は笑ってくれたのに、美園には速攻で却下された。

「さおり、真面目に考えてよ!」

「考えてるって。コスパもいいし」

反論したら、美園ににらまれた。
155cmの美園が170cmの私をにらむと、自然と上目遣いになる。
美園も真澄も「さおりは背が高くてカッコいい」
と言ってくれるけど、私は小柄な二人が羨ましい。
小柄女子の上目遣いは最強だから。
まあ、私の場合、小柄だったとしても、
最強の上目遣いなんてできないと思うけど。

「もう、さおりはすぐコスパコスパって! 
彼氏の誕生日プレゼントに非常食なんてあげたらドン引きされるよ!」

「欲しくないものをもらうより嬉しくない?」

本音を言ったら美園が本気で怒り始めたので、
とっさに目の前のものを指差した。

「じゃあ、これは?」

指指した先にあったのは、紫の石が付いたピアスだ。
シンプルなシルバーのやつ。

「あ、いいかも」

美園が手に取ったピアスを真澄ものぞき込む。
「フジミん、右耳にピアスをしてたもんね。」
「かわいいし、値段もちょうどいいし、これにする!」

ピアスかあ。ピアスをしてる男子って、私はあんまり得意じゃない。
会わなくてよかったかも。

なんて余計な一言を慌てて飲み込んだ私の横で、美園は上機嫌でレジへ向かった。