「俺、ずっとサッカーやってたんスけど、
頭一つ抜け出せなくて。
アメフトは競技人口も少ないし、
高校とか大学から始める人が多いから、
これからでも勝負できるかなって」

「別に不純じゃないよ」

私の言葉に男の子はぱっと顔を上げた。
その顔が「本当に?」と言っているように見える。
私が笑ってうなずくと、
男の子もつられたように笑った。

「俺、頑張ります。
絶対受かって、ここに通えるように」

「頑張って。
でも、ちょうど入れ替わりだね。
私、三年生だから」

わかりやすいほどがっかりした男の子が、
何かを思いついたように、
ぱっと明るい顔になった。

「でも、ここの大学に通うんですよね?」

「うん。そのつもり」

男の子が「よっしゃ!」と小さくガッツポーズをする。
そして、私の目を見て言った。

「名前、聞いていいですか?」

「さおり。八月一日って書いて、ほづみさおり」

「え?」

男の子は私の名前をくり返してから、
こちらをじっと見た。
私の体を射抜くような強い視線。

思わずたじろいで、
彼の視線を避けるように背を向けた。
先に歩き始めてから、
背中がふっと軽くなったような気がした。
振り向くと、そこにはもう、誰もいなかった。

え、ちょっと待って。どういうこと? 
もしかして、あの子も別の世界の人なの? 
だとしたら、いったいどこの誰?
唐突に男の子が消えた場所で私は立ち尽くした。