そしてまた世界は枝分かれする


すぐに駆けつけてくれた真澄と美園の顔を見たら、
ホッとして体中の力が抜けた。

「美園、ごめんね」

会うなり謝ると、美園が口を尖らせた。

「本当だよ。全然電話に出てくれないんだもん。
フジミんもギリギリまで待ってたけど、バイトに行っちゃったよ。
会って欲しかったのに」

「フジミん」は美園の彼氏だ。私たちと同じ2年生だけど、別の高校に通っている。

「そんなことより、さおりだよ。大丈夫? 何があったの?」

スタバで知らない男に腕をつかまれ、逃げたと話すと、
美園は眉間にシワを寄せて私に尋ねた。

「それ、何時頃の話?」

「お店に入ったのが5時だから、5時10分か15分くらいかな」

私の答えに、二人が顔を見合わせる。変な間があって、真澄が口を開いた。

「それ、本当にその時間だった?」

「うん。観覧車の時計を見て、約束には30分早いけど、
先に入って待ってようと思ったんだもん」

「私たち、もっと前からスタバにいたんだけどな。
フジミんが遅刻して、映画に間に合わなかったから」

「本当に? じゃあ、私がその男にからまれてるの、見た?」

 二人が同時に首を横に振る。

「美園たち、奥の席にいたんでしょ? レジの向こうの」

「ううん。さおりのお気に入りの席だよ。
入り口の近くで、コスモロックが見えるとこ」

「え? 私も同じ席に座ってたんだけど」

二人と私の間に、微妙な空気が流れた。

でも、三人ともこんなどうでもいいウソをつくタイプじゃない。

「寒いし、とりあえず中に入らない?」

気まずい空気を変えようと、真澄がショッピングモールを指差した。