「で? 他にはないの? 聞きたいこと」

ハンバーグを切りながら佐藤直規が尋ねる。
まだ続いてるのか、質問タイム。

とりあえず、一番聞いておきたいことを聞いておこう。
「あの、さっき何度も危ない目に
遭ってるって言ってましたよね」

「そうなの。さおりちゃん、聞いてくれる? 
小学生の時は3階の教室の窓から落ちて、
植え込みで命拾いしたでしょ。これがその時の傷ね」

長い前髪をかきあげて、左眉の上の傷を指差す。

「で、中学生の時は制服で海に飛び込んで溺れそうになって、
近くにいたサーファーに助けられたの」

ああ……あっちの佐藤直規よ、お気の毒様。

こっちの佐藤直規は、小学生男子そのままだよ。

あっちの佐藤直規は「そんなはずない!」と怒りそうだけど。

「でも、一番ヤバかったのは5歳の時かな」

心臓が跳ねて、手が止まる。

私は初めてこっちの佐藤直規、ええい面倒くさい、
フジミんの顔をまっすぐに見つめた。

「今ぐらいの時期にね、親父と横浜スタジアムに、
デーゲームを見に行ったんだ」

心臓の鼓動が、うるさいぐらい速くなる。
お願いだから、ちょっと静かにして。

「スアジアムに行く途中、工事中のビルの前で、
俺がよそ見して転んだんだ。そこは道が狭かったから、
親父は後ろにいた親子連れに道を譲ったらしいんだよね」

私はそっとスプーンを置き、テーブルの下でぎゅっと両手を握りしめた。

「その時、突風が吹いて、ビルの足場が崩れたんだって」