そしてまた世界は枝分かれする

顔も声も確かに同じなのに、あっちの佐藤直規と「フジミん」はまるで違った。
とにかくチャラい。チャラすぎる。

これが本当にあの佐藤直規? 

いや、頭が固くて暑苦しい、あっちの佐藤直規とは別人だ。
わかっていても、違いすぎて戸惑う。

なのに、完全に別人とも言えないような…。
私と金髪のさおりもこんな感じなのかな。

あっちの佐藤直規が「多重人格かも」と言いたくなるのがわかる。

いろいろ考えちゃうから、美園が私に話を振ってきても頭に入ってこない。

美園、ごめん。

でも今は、早くあっちの佐藤直規に会いたい。
違った、あっちの佐藤直規に早くこのことを話したい。

こっちの佐藤直規を盗み見したら、ニヤけた顔と目が合ってしまった。

だめだ、やっぱり調子が狂う。
この状況、地味にしんどい。

今日はもう帰ろう。そう思ったのに。
美園は私が遠慮していると思ったらしい。

いいからいいからと腕を掴まれ、桜木町駅の裏のファミレスに連行された。

遠慮じゃなくて、本気で帰りたいんだけど。
ランチなんて、二人で食べればいいのに。

「このピアスを選んでくれたの、さおりちゃんなんでしょ?」

こっちの佐藤直規が自分の右耳を指差した。

「ええ、まあ」

「ありがと。じゃあ、何でも聞いて」

何それ。妙に俺様なところは、同じかも。

確かに聞きたいことはいろいろあるけど、とりあえず無難なところからいくか。

「ええと……二人はどこで知り合ったんですか?」

「きっかけ? ナンパ!」

「ちょっとフジミんってば! 友達の紹介でしょ!」

すかさずパシッと背中を叩かれ、
「あ、怒った?」と美園の顔を覗き込む。

もう、勝手にイチャイチャしてください。
私は静かにドリアを食べてますから。