美園が憂鬱そうな顔で水平線を見つめてつぶやく。

「真澄、彼氏と同じ大学に行くのかな」

「仕方ないよ。うちの大学には
ファッション系の学部がないもん」

中学からずっと一緒だった真澄と離れるのは私だって寂しい。
でも、ファッション系に行きたいという真澄の希望は尊重したい。

「まあ、内部進学しても、みんな違う学部だもんね。美園は法学部でしょ?」

中学に入ったばかりの頃、女性弁護士が活躍するドラマを見た美園は、
「私、弁護士になる!」と宣言したのだった。

そう宣言してもみんなが納得するほど、美園は成績もいい。
なのに、本人は今になって「無理無理!」と笑い飛ばした。

「国家試験とか、受かる気しないもん、私」

「美園なら、頑張れば受かると思うけど」

「だって私、高校も大学も受験したくないから、うちの学校にしたんだよ。
そんなに頑張れないと思うわ。
さおりみたいに、医者にならなきゃいけない理由もないし、
苦労して弁護士になっても大変そうだし。
さおり的にいうと、コスパ的にどうかなって。
一番潰しが利く政経学部がいいなって思ってる」

「びっくり。そんなこと考えてたんだ」

正直に白状すると、美園は怒るどころか「でしょ」と得意げな顔をした。

美園がそこまで冷静に将来のことを考えていたことも驚きだけど、
私が引っかかったのはそこじゃなかった。

私の「医者にならきゃいけない理由」ってなんだっけ? 

父に「無理するな」と言われてムキになったくせに、
どうして医師になりたいのか、そもそも医師になりたいのかがわからない。

自分の気持ちがわからないなんて、なんだかすごく気持ちが悪い。

モヤモヤしていると、後ろからいきなり肩を掴まれた。
驚いて振り向いたら、今度は心臓が止まるかと思った。