「そういえば、今日は金髪さおりと待ち合わせだったの?」

これまでの私の経験からすると、別の世界に飛ばされる時、
日付や時間は違っても、場所だけは同じ場所に飛ばされる。
ということは、佐藤直規は自分の世界の野毛山公園に行っていたわけで。

「夏の間ずっと、ほったらかしだったから、会う約束をしてたんだけど…」

「またすっぽかされた?」

ちょっとからかってみたら、佐藤直規は「うるせえな」と口をとがらせた。

「最近、何かおかしいんだよ、あいつ」

「おかしいって?」

自分とは別の人間だとわかっていても、やっぱり気になる。

「電話しても出なかったり、メールしても返ってこなかったり」

「それって…」

フラれたんじゃないの? 

そう言いそうになるのを、直前で止めた。

いくら相手が佐藤直規でもさすがに傷つくかも。
でも、本人もちょっと気付いているらしい。

「いや、もともとそういうところがあるんだよ。
でも最近、妙にハイなメールを送ってきたと思ったら、
こっちがメールしても返ってこないから、気になって」

なにそれ。大丈夫なの? 金髪さおり。

「とりあえず会いに行ってみようと思って、桜木町からバスに乗ったんだ。
あいつの家まで、何度か送ってったことがあるから」

なんか、変な感じ。
佐藤直規が私の家に来たことがあるなんて。

「バスを降りて、公園から電話をかけたら、全然違う人が出たんだ。
あれ? もしかして俺、拒否られてんのか?」

自分で言ってヘコんだのか、頭を抱えた。

「佐藤直規は、電話をかけた時点で、こっちの世界に来てたんじゃない?」

「あ! そういうことか。なんだ、焦っちゃったよ、俺」

そういうと、にやけた顔で私の水のグラスに手を伸ばして一気に飲み干した。

「それ、私のなんですけど」

「あ、ごめんごめん」

まったくもう、浮かれちゃって。わかりやすすぎだよ、本当に。