「あの時、佐藤直規は5歳だったんでしょ? 
よく覚えてるね、いろんなこと。
私なんて、風と桜の花のことしか覚えてないのに」

「いや、後で調べたんだ、自分で」

「え? 何で?」

こんなふうにストレートに聞けたのは、同じ立場だからかもしれない。

「何でって……俺には
責任があると思ったからだよ」

「責任? 佐藤直規に? 何で?」

佐藤直規は一瞬言葉に詰まってから、少し考えてこう言った。

「まあ、俺はほら、男だし、長男だからさ。
お袋や弟を守るっていう責任があるんだよ。お前と違って」

「ふうん」と答えたけれど、佐藤直規が一瞬言葉に詰まったのが、
少し気になった。

「それよりさ、佐藤直規って呼ぶのやめない?」

「やめない。だって、佐藤直規は佐藤直規でしょ」

「だから、いちいち会話の途中で
俺のフルネームを世間様に公表するのはやめろ」

「他になんて呼ぶの? セクハラ俺様男とか?」

「お前なあ……」

呆れた顔をしてから、プッと吹き出す。

「本当に別人なんだな、金髪さおりと」

「だから、何度も言ってるのに」

「まあな」

「ねえ、そっちのさおりは何て言ってた? あの事故の話」

「いや、金髪さおりにこの話をしたことはないよ」

「え、何で? 彼女なんでしょ?」

「何でって……。別に彼女だからとかじゃなくて……。
こんな話、聞かされてもリアクションに困るだけじゃん」

言われてみれば、そうかもしれない。

私だってそうだ。
小さい頃にお母さんが亡くなったことは美園や真澄に伝えていても、
事故の詳しい内容までは話してないし。

重くなった空気を振り払うように、話を変えた。