何をどう聞いて、何をどう話せばいいかわからない。
それは佐藤直規も同じみたいだ。

桜に浮かれる人々から逃げるように、私たちはどちらからともなく、
下り坂を歩き始めた。

黙って歩いているうちに、気づくと伊勢佐木町まで来ていた。

大岡川にかかる橋を渡りながら、しまったと思った。
ここも桜の名所だったんだ。
川沿いの桜は満開で、
みんな幸せそうな顔で桜を見上げている。

こんな時だけど、お腹が空いた。
そういえば、お昼ご飯。食べ損ねた。

「とりあえず、どこか入ろうか」

隣の青白い顔が無言でうなずいたので、私が知っているカフェに入った。
急な出費だけど、2月のお小遣いの繰越があるからいっか。

さっそくカフェラテとパンケーキのセットをオーダーする。
ここのカフェラテはチョコレートソースがかかっていて、私好みなのだ。

メニューを手に取ろうともしない佐藤直規に
「私と同じでいい?」と尋ねると、ぼんやりしたままうなずいた。

完全に心ここに在らずって感じ。当たり前か。