目を離せなかったのは、あまりにも悲しげだったからだ。
3回しか会ってないのに、毎回偉そうで押し付けがましい佐藤直規。

だけど、今日は全然違う。
緑がかった茶色い目に涙がにじんでいるのが、遠くからでもわかった。

見なかったふりをして、そっと立ち去ろう。
そう思ったのに、佐藤直規は目ざとく私を見つけた。

「あ、黒髪さおり!」

黒髪さおりって。
名前みたいに呼ばないで欲しいんですけど。

佐藤直規はこっちに駆けてくると、ぐいっと私の肩をつかんで桜を見上げた。

「なあ、なんでこんな時期に桜が咲いてるんだ?」

なるほど。
パラレルワールドって、私があっちの世界に行くだけじゃないんだ。

「なんでって、春だから」

ここぞとばかりに、ドヤ顔で言い返す。
もちろん佐藤直規が納得するわけはなく、
「ふざけんなよ」とにらまれた。

「いや、そうなんだって。
みんな、お花見してるでしょ」

「そんなはずないだろ。
昨日まで8月だったんだから」

なるほど。
私の言うことに耳を傾ける気はないってことね。

「わかった。じゃあ、証拠を見せてあげる。ついてきて」

私たちが今いる野毛山公園と日ノ出町駅の間には、
市内で一番大きな市立図書館があるのだ。

ブツブツ言いつつも、佐藤直規は素直についてきた。