三学期の終業式の日は、朝から暖かかった。
誰かが季節のアクセルを踏み込んだみたいに春が加速している。
春休みに一度は会おうと美園たちと約束し、
日ノ出町駅で電車を降りる。
いつものように野毛山公園の中を通り抜ける途中で、足が止まった。
いつもは人もまばらな広場が、家族連れや酔っ払いのグループでいっぱいだ。
そっか、今日って土曜日だったっけ。
みんな、咲き始めた桜を見に来ているんだろう。
本当に桜を見上げている人なんて、ほとんどいないけど。
またこの季節が来ちゃったんだ。
思わずため息が出る。桜が嫌いなわけでも、
お花見してる人が嫌いなわけでもない。
桜を見ると悲しくなるのが辛いだけ。
それでも、目の前で咲いていれば、つい薄紅の花を見上げてしまう。
その時、強い風が吹いて、咲いたばかりの桜の花びらが宙を舞った。
あの日も、風が強かった。
見上げた青い空に桜の花びらが舞って、渦を巻いて……。
頭の中に鮮明に残る、5歳の春の記憶。
と言っても、覚えているのは写真のように切り取られたあの一瞬だけだ。
そしてその一瞬を思い出すたび、胸が締め付けられる。
そんな自分と、お花見をしている人たちのテンションがあまりに違いすぎて、
一人置いてきぼりにされた気分になってしまう。
だから、この季節はイヤだ。
早く家に帰ろう。そう思った時だった。
大騒ぎする花見客の中でたった一人、満開の桜を見上げている人がいた。
ざわめきの中で一人だけ違う空気をまとったその人に、
自然と目が吸い寄せられる。
あれ? もしかして……出た、佐藤直規!
誰かが季節のアクセルを踏み込んだみたいに春が加速している。
春休みに一度は会おうと美園たちと約束し、
日ノ出町駅で電車を降りる。
いつものように野毛山公園の中を通り抜ける途中で、足が止まった。
いつもは人もまばらな広場が、家族連れや酔っ払いのグループでいっぱいだ。
そっか、今日って土曜日だったっけ。
みんな、咲き始めた桜を見に来ているんだろう。
本当に桜を見上げている人なんて、ほとんどいないけど。
またこの季節が来ちゃったんだ。
思わずため息が出る。桜が嫌いなわけでも、
お花見してる人が嫌いなわけでもない。
桜を見ると悲しくなるのが辛いだけ。
それでも、目の前で咲いていれば、つい薄紅の花を見上げてしまう。
その時、強い風が吹いて、咲いたばかりの桜の花びらが宙を舞った。
あの日も、風が強かった。
見上げた青い空に桜の花びらが舞って、渦を巻いて……。
頭の中に鮮明に残る、5歳の春の記憶。
と言っても、覚えているのは写真のように切り取られたあの一瞬だけだ。
そしてその一瞬を思い出すたび、胸が締め付けられる。
そんな自分と、お花見をしている人たちのテンションがあまりに違いすぎて、
一人置いてきぼりにされた気分になってしまう。
だから、この季節はイヤだ。
早く家に帰ろう。そう思った時だった。
大騒ぎする花見客の中でたった一人、満開の桜を見上げている人がいた。
ざわめきの中で一人だけ違う空気をまとったその人に、
自然と目が吸い寄せられる。
あれ? もしかして……出た、佐藤直規!