「僕ね、やりたいことが見つかったんだ。
うちの学校ってね、受験で失敗しても、
学部を選ばなければ内部進学できるんだよ。
じゃなきゃ、うちの親も許してくれないよ」
「やりたいことって、何?」
そう私が聞き返すと同時に、
電車が日ノ出町駅に着いてしまった。
「今度、話すね」と笑顔で
手を振るパン田くんを乗せて、
赤い電車は去っていった。
やりたいことがあるパン田くんがうらやましい。
私だってずっと、まっすぐ前を見て
走ってきたはずなのに。
見えていたのは医学部合格という
ゴールテープだけだったのかもしれない。
ゴールテープを切った後の自分が、全然イメージできない。
「無理しなくていい」
元旦の父の言葉を思い出す。
真紀子さんがああなってしまった今、
無理に医学部に行かなくてもいいのかもしれない。
だけど、今さらほかの道なんて考えられない。
胸に広がるとまどいは、
真っ白いシャツに落とした
醤油のシミのように、
いつまでも消えずに私の心に居座っていた。
うちの学校ってね、受験で失敗しても、
学部を選ばなければ内部進学できるんだよ。
じゃなきゃ、うちの親も許してくれないよ」
「やりたいことって、何?」
そう私が聞き返すと同時に、
電車が日ノ出町駅に着いてしまった。
「今度、話すね」と笑顔で
手を振るパン田くんを乗せて、
赤い電車は去っていった。
やりたいことがあるパン田くんがうらやましい。
私だってずっと、まっすぐ前を見て
走ってきたはずなのに。
見えていたのは医学部合格という
ゴールテープだけだったのかもしれない。
ゴールテープを切った後の自分が、全然イメージできない。
「無理しなくていい」
元旦の父の言葉を思い出す。
真紀子さんがああなってしまった今、
無理に医学部に行かなくてもいいのかもしれない。
だけど、今さらほかの道なんて考えられない。
胸に広がるとまどいは、
真っ白いシャツに落とした
醤油のシミのように、
いつまでも消えずに私の心に居座っていた。