横浜方面へ向かう急行に乗り、
並んで座ってしばらくしてから気がついた。

「あれ? パン田くん家って、反対方面じゃなかったっけ?」

「うん。でも、今日は横浜に行くから」

「へえ。買い物?」

「ううん。予備校」

「えっ、まさか受験するの?」

驚いて、思わず身体ごとパン田くんの方を向く。
私のリアクションの良さに、パン田くんは満足げだ。

「うん、そのまさか。今、『もったいない』って思ったでしょ」

そりゃそうだ。
受験をしなくて済むのが附属高校最大のメリットなわけだし。

私たちのように中学からならまだしも、パン田くんは高校からの編入組だ。

外部受験なんて、買い物して貯めたポイントを使わないようなものだと思う。
コスパが悪いどころの話じゃない。

そんなこと、本人が一番わかっているだろうけど。

「パン田くんは、大学でも陸上部に入って、箱根を目指すと思ってた」

「僕もそう思ってた。入学した頃はね」

「今は違うの?」

パン田くんが、革靴のつま先に目を落としてうなずく。
ただでさえ細い肩が、さらに細く見える。

「わかっちゃったんだ。自分のレベルがどの程度かって。
ここ何年か箱根に出てないけど、うちの大学の陸上部って、
スポーツ推薦組がほとんどなの。
万が一、箱根に行けたとしても、僕が走れる可能性はほぼゼロだなって」

でも、大学に入ってから活躍する選手だって、いるんじゃない? 
今から諦めちゃうのはもったいないよ。

そう言ってあげた方がいいのかもしれない。

だけど、パン田くんの気持ちもわからないのに、
わかったふうなことは言いたくない。

だから、「そっか」なんて、相槌みたいなことしか言えなかった。