あれ以来、パラレルワールドのことはいつも頭の隅にあった。

私と同じ名前、同じ顔、途中まで同じプロフィール。
だけど、金髪のさおり。

佐藤直規と金髪のさおりは枝分かれしたパラレルワールドの人間だ。
そう考えれば、つじつまが合う。

問題は、どうして枝分かれした別の世界に私が迷い込んでしまったかってこと。

……と、ここまで考えるといつも、冷静な自分がツッコミを入れる。

「いやいや、パラレルワールドなんて、
ありえないって。さおり、しっかりしろ」って。

でも、今は2月。期末試験がある。

いくら附属生とはいえ、医学部の内部進学枠は狭き門だ。
その枠を確実に取るには、定期試験は一回も手が抜けない。

期末試験に気を取られているうちに、2月は終わっていた。

3月の始めに戻ってきた試験結果は上々で、
私はほっと胸をなでおろした。

美園と真澄が大騒ぎしていたホワイトデーも過ぎ、
後は春休みが来るのを待つだけ、という放課後。

真澄たちと教室で別れて金沢八景駅のホームで電車を待っていると、
いきなり肩を叩かれた。

「はっさく、久しぶり」

「久しぶり。っていうか、
まだ私のことはっさくって呼ぶの、パン田くんだけだよ」

「僕のことをパン田って呼ぶのも、はっさくだけだけどね」

確かに。パン田くんと私は、同時に吹き出した。

はっさくもパン田も、一年生の時に図書委員の先輩からつけられたあだ名だ。

「一日は朔日で、八月一日は八朔。だから、八月一日ちゃんは『はっさく』ね」

八朔という言葉は真紀子さんから教わって知っていたけど、
さすが高校の図書委員、あだ名のつけ方が渋い。

でも、パン田くんの方は……。

「パン田ってあだ名、ベルギー先輩が考えたんだったっけ」

「そうそう。鈴木でベルギーも笑ったけど、
パン屋なのに米田だからパン田って……なるほどって納得しちゃったよね」

パン田くんが、グーにした手を口に当てて「ふふふ」と笑う。

本人が嫌がるから口にはしないけど、やっぱりかわいい。
私より小柄なパン田くんは笑うと子犬みたいで、
男子と話している感じがしない。