顔を上げると、あたりは暗くなっていた。

読み終わった本を閉じ、暗い部屋で混乱した頭の中を必死に働かせる。

昼間の山下公園。
佐藤直規。
私と同じ顔と声の八月一日さおり。
金髪、大学生、生きているお母さん。

頭の中に散らばった情報を一つひとつ拾い上げるように、考えを巡らす。

もしかしたら、多重人格じゃなくて、
パラレルワールドってやつじゃない? 

いやいや、ありえないって。

そんなマンガみたいな話、現実に起こるわけないじゃん。

行き着いた突飛な解答を、冷静な私が即座に否定する。

でも……。

パラレルワールドだと考えると、つじつまが合う。

私は、今読んだばかりの本を頭の中で反芻した。

パラレルワールドを日本語に訳すと「並行宇宙」。
宇宙は誕生以来、どんどん枝分かれしていて、
無数の「別の宇宙」が並行して存在しているという。
そして、一人の人間の人生も、
同じようにいくつものパラレルワールドがあるらしい

一人の人生は、木のようなものみたいだ。

一本の木がこの世に生まれて育っていき、幹から枝が伸び、
そして枝分かれしていく。

ということは……

私の人生や私の世界も枝分かれしていて、
「金髪の八月一日さおり」は、
その枝分かれした別の世界の私ってこと?

佐藤直規の話が本当なら、
金髪のさおりのお母さんは生きているわけで。

ということは、お母さんが亡くなったあの時、
この私の人生と、金髪のさおりに枝分かれしたってことか。

いやいやいや、落ち着け、私。
そんなSFみたいな話、あるわけないって。

でも、どう考えても、どこか違う世界に私は迷い込んでしまったわけで。

いや、やっぱり意味がわからない。

それに、なんで私なんだろう。
私なんて、UFOどころか占いだって信じてないのに。

もう、今日は帰ろう。

私は混乱した頭のまま、真紀子さんのお城を出た。