テレビ台の下。
CDプレーヤーが置かれたオーディオラック。
有名な陶器ブランドのカップ&ソーサーが並ぶ、
やたらと重厚な食器棚の引き出し。

キッチンの引き出しも見たけど、手帳らしいものはどこにもなかった。

それにしても、真紀子さんのためとはいえ、
勝手に引き出しを開け閉めするのは気が引ける。

というか、疲れた。ちょっと休もう。

私はキッチンに戻り、お湯を沸かした。

カフェラテが飲みたいけど、真紀子さんのキッチンには高級な紅茶しかない。

ソファに座って紅茶を一口飲み、リビングを見渡してその一画に目が止まった。

そういえば本棚、まだ見てなかった。

真紀子さんの本棚は古い本が多い。
古い医学書や画家の画集、歌舞伎のパンフレット。
それらがジャンル別にきちんと並べられている。

図書委員の先輩が「本棚はその人そのものだ」
と言っていたけど、その通りだ。

古い本が並ぶ中で、一冊だけ新しい本に目が止まった。
背表紙には「量子論と量子力学」の文字。

量子論って、物理とかそっち系だっけ。
考えるより先に、私はその本を取り出していた。