また夢でも見ちゃったのかな。
昼間に見る夢って、白昼夢って言うんだっけ。
だとしたら私、やっぱりどうかしてる。

今日はもう、家に帰って休みたかったけど、
もうひと仕事しなきゃ。
それに、頭がこんがらがったままじゃ、勉強しても集中できない。

私はバックを持ち直すと、家とは反対方向に歩き出した。
紅葉坂を上っていき、県立図書館の前を通り過ぎたところで右に曲がる。
しばらくすると、見慣れた建物が現れた。

白い板壁に、オリーブグリーンの屋根と窓枠をあしらった洋館。

窓のガラスはゆがんでいるし、古い書体で書かれた
「八月一日医院」の看板も、ところどころ剥げている。

70年近く前に建てられたのだから、仕方ない。

しばらく来ていなかったせいか、思っていた以上にくたびれて見える。

この医院と、持ち主の真紀子さんは、一心同体なのかもしれない。
門を押し開けると、ギギギときしむ音が響いた。

「正面玄関は患者さんの入り口です」

真紀子さんにそう言われていた私は、いつも裏口から入る。
今は患者さんもいないけど、自然に裏口へ回った。

建物の後ろには庭が広がっている。
昔は花でいっぱいだった、真紀子さんの庭。

幼稚園児だった頃は、よくここで真紀子さんの仕事が終わるのを待っていた。