そのまま公園を走り抜けて横断歩道を渡り、
オレンジ色のタクシーに飛び乗った。
乗ったはいいけど、どうしよう。
佐藤直規は、私の家も知ってるみたいだし。

「ええと…桜木町駅まで」

運転手さんが「はい、桜木町駅ですね」と前を向き直ったその時。

「おい、急に走るなって」

反対側のドアを勝手に開けて、佐藤直規が乗り込んできた。

「ちょっと、何!」

「何ってほら、忘れ物。まったく、毎回これかよ」

そう言うと、ダッフルコートを私の頭にバサッとかぶせた。
しまった、忘れてた。

「それはどうも。じゃ、これで」

「なに言ってんだよ。一人にするわけにいかないだろ。彼氏としては」

「余計なお世話! 私の彼氏じゃないし!」

言い合っていると、運転手さんが遠慮がちに「ええと、どうします?」と口を挟んだ。

「あ、出しちゃってください」

あっけらかんと答える佐藤直規。
って、どこに行くかも知らないくせに!

運転手さんが困った顔でルームミラー越しにこちらをうかがっている。

仕方ない。私はため息をついた。

「出してください」

「よしよし、いい子だ」

佐藤直規がわしわしと私の頭を撫でる。