バカバカしい。
こんな話、付き合ってらんない。

立ち上がった私の肩を、佐藤直規は「待て待て」と強引の押さえつけた。

「落ち着けって」

「落ち着いてます。
だいたい、どうやって同時に黒髪セミロングと金髪ショートにするわけ?」

「そんなの、染めたりウィッグを使えばできるんじゃねえの?」

「残念でした。
私は髪なんて染めたこともないし、ウイッグなんて使ってません」

目の前でわざと頭を振って見せる。
私の長めの黒髪はムチのようにしなって、佐藤直規の顔にヒットした。

「すいませーん」と一応謝ったけど、口先だけなのはバレバレだ。

「本当にお前ってやつは……」

佐藤直規が不機嫌そうに顔をしかめる。

と思ったら、素早く手を伸ばして私の髪の毛を思い切り引っ張った。

「痛っ! ちょっと、何するの!?」

「ふん、お前が言うな」

「痛いってば! 離してよ!」

「調べてるんだよ、ウイッグかどうか。
うーん、引っ張っても取れないってことは、やっぱり地毛なのか?」

「だから言ったでしょ!」

わかったら、早く離せっての! 
よし、こうなったら最後の手段だ。
私は日に焼けた佐藤直規の二の腕の内側を思い切りつねった。

いくら筋肉質でも、内側の柔らかいところなら痛いはず。

「痛っ! 何するんだよ、この暴力女!」

「自分こそ! 放す? そっちが放すなら私も放す」

「わかったわかった。
はー、同じ猫顔でも、こっちはアムールトラって感じだな」

「はあ!? なんだって!?」

「興奮しすぎ。周り見てみな」

いちいち癇に障る言い方だけど、確かに周りの視線が痛い。

「うるさくてすいません」

慌てて周りにヘコヘコ頭を下げたのは私だけだ。

「もう、最悪! 佐藤直規のせいだよ!」

恥ずかしさのあまり、私は小声でキレた。
キレ返されるかと思ったのに、佐藤直規は哀れむような目でこっちを見ている。

「とりあえず、病院に行こう。
俺が一緒に行ってやるから」

「だから! 違うって言ってるでしょ!」

どうしてそこまで私を多重人格にしたいんだろう。
これ以上話しても無駄だ。
私はバッグを引っつかむと、レストハウスを飛び出した。