「え?」
目の前にいたのは、若い男。全然知らない男。
その男は、うっすら緑がかった茶色い瞳。

何が起こったかわからないまま、その澄んだ目に釘付けになる。
すると、その緑がかった茶色い瞳から
目に見えない何かが私に向かって一気に流れ込んできた。

まるで、川の上流から水がこちらに押し寄せてくるような、そんな感覚。
けれど、それは一瞬のことだった。

「約束すっぽかすの、これで何回目? マジ勘弁なんですけど」

男の怒った声に、私は我に返った。

なんなの、この人。
明らかに人違いなのに堂々としすぎて怖いんですけど。

「人違いです」

思いっきり腕を振り払うと、男はぽかんと口を開けた。

「は? 何言ってんの? この猫顔を間違えるかよ。
お前、さおりだろ? 
八月一日って書いてほづみって読む、ほづみさおり」

正解。でも、こんな失礼な知り合いなんていたっけ? 
うん、いない。考えるまでもない。

「そうですけど。どちらさまですか?」

「いいかげんにしないと、本気で怒るぞ。
それより何だよ、そのカッコ。何で女子高生のコスプレしてんの?」

「は?」

普通に制服ですけど。口に出す代わりに、精一杯の抗議を込めてにらみ返した。

「髪まで黒くして、気合い入り過ぎ。
それなのに冬服って、どういうこと? 暑くねえの?」

この人、何言ってるの? 自分こそ、この寒いのに
Tシャツとハーフパンツってどういうこと? 
やっぱりこの人、ちょっとおかしい。